採点地獄に陥る前に読み終えた本ですが、
いろいろあって今ごろ感想をアップ(^^ゞ

$圏外の日乘-みんなのふこう
(ポプラ社、2010.11.14)

若竹七海(わかたけ・ななみ)は、
お気に入り作家の一人です。
『ぼくのミステリな日常』(1991)
という作品でデビューして以来、
ほとんど読んでいるのではないかしら。

最近は主に、神奈川県の海べりにある
架空の小都市を舞台とした
通称〈葉山市〉シリーズが中心で、
『みんなのふこう』も
そのシリーズの一冊になります。

デビュー作の『ぼくのミステリな日常』は、
企業の社内報の記事という体裁の
連作長編でしたけど、
今回の『みんなのふこう』は、
地方ラジオ局・葉山FMに寄せられた
お便りを紹介するDJの語りという体裁の作品で、
タイトルはそのラジオのコーナー名です。

ある女子高生からのお便りで、
知りあいに、こんな子がいる
と書かれてきたのが
ココロちゃんという不幸(不運)な少女。

なぜか彼女は不幸に見舞われやすい体質で、
事件に巻き込まれて留置されたこと三回、
ちょっとした事故や怪我で
病院に担ぎ込まれること数知れず。

そんなココロちゃんについての
レポのようなお便りが月一回、読み上げられます。
それと同時に葉山市の地方ニュースや
他の読者のお便りも紹介されるんですが、
そのニュースの内容が、どうやら
ココロちゃん絡みで起きた事件の報道で、
毎回意外な連関が明らかになるという趣向。

途中から、
DJだけでは話が広がらないと思ったのか、
関係者の日記や手紙、取り調べテープ
といったスタイルに変わるんですが、
ココロちゃんに起きる不幸と、
それに巻き込まれてひどい目に遭う周り、
そのひどい目に遭う人たちが
さまざまな事件と意外な関係を持っていて、
という具合で一年間の、
ココロちゃんをめぐる事件の
顛末が書かれた長編です。

ココロちゃんの不幸に巻き込まれるのには
ある種のルールがあるんですが、
それは読まれてのお楽しみ、ということで、
若者を始めとするさまざまな世代の
語りを活写する上手さもさることながら、
読み終えるとこれって何なんだろう、
と不思議な読後感が残る秀作でした。

何なんだろうというのは、
何ともジャンルを決めがたい。
ミステリだといえばミステリだし、
ホラーだと言われればホラーのような気もするし、
かといって、分かりやすい怖さのテイストのホラー
というわけでもない。
あえていえば「奇妙な味」の長編でしょうか。

海外の作品には時として、
こんな掴み所のない、でも微妙に面白い
といった読後感を残す作品があって、
(主として短編に多い)
そういうのを「奇妙な味」といいます。
江戸川乱歩が作った、
便利なギョーカイ用語なんですけどね(藁

何か変わった感じです。でも面白い。
最初にドーンとまとまった形で事件を示すのではなく、
読んでいく内にさまざまな断片がつながって、
事件らしきものの形が、もやもやっと浮び上ってくる。

その、もやもやっとした感じは、
不幸を呼ぶ少女ココロちゃんの、
ほわほわな感じのキャラにもよるんですかね。

そのもやもやが、
ああ、そういうことだったのか、と
分かるあたりのタイミングが絶妙です。

でも、おもしろ可笑しいだけじゃなくて、
何気に意地悪な視点もあって、
この微妙な意地悪さが、
個人的には好きなんですよね。

サラッと書いているようで、
ものすごく凝ったことをしているという、
日本のミステリにはあまりない感じの
(少なくとも自分の知る限り、ですが)
テイストです。

もうちょっと分かりやすいタイプの作品としては
『プラスマイナスゼロ』

$圏外の日乘-プラスマイナスゼロ(文庫版)
(ポプラ文庫ピュアフル、2010.11.11)
というのも出ています。

これは2008年に出た本の文庫化ですが、
文庫版だけの書き下ろし短編が
ボーナストラックとして最後に入っていて、
読むんなら、こちらでどうぞ。

ちなみに、2008年に出た初刊本はこちら。

$圏外の日乘-プラスマイナスゼロ(初刊本)
(ジャイブ、2008.12.13.)

一度読んでいるのに(読んでいるから?)
油断してしまい、
第3話「悪い予感はよくあたる」には
またまた騙されてしまいました。

ユーモラスなホラーあり、洒落た犯罪ものあり、
謎解きものも、もちろんあるし、
ツイストの効いたショートショートもあります。

この本は第1話から順番に読んでいくと
いいと、いっておきます。

そういえば、なぜか知らないけど
不幸に見舞われる少女という
『みんなのふこう』に出てくる設定は、
『プラスマイナスゼロ』で使ってたネタだなあ。

これ書いてて、今、気づいたよ(藁

でも、作品から受ける印象はぜんぜん違います。
不幸に見舞われるという設定を使って、
『みんなのふこう』を書き上げちゃった若竹七海は
やっぱりすごいですね。