$圏外の日乘-新幹線大爆破
(1980/駒月雅子訳、論創社、2010.7.25)

『新幹線大爆破』という映画はご存知でしょうか。
1975年公開の東映作品で、監督は佐藤純彌。

高倉健演じる町工場のオヤジ
(にしてはカッコ良過ぎるオヤジw)
をリーダーとする3人組が
80キロまで減速すると爆発する爆弾を
東京発博多行の新幹線に仕掛けて、
乗客を人質に身代金を奪おうとするサスペンスものです。

この設定で気づいた人もいるでしょうが、
キアヌ・リーヴス主演の映画『スピード』(1994)の
元ネタだといわれたことのある作品です。

本来は153分(2時間半弱)の尺ですが、
100分の短縮版がフランスで公開されて大当り。
その後、115分の短縮版がアメリカで公開され、
これも大当りしたそうで、
その海外版ノベライズがこのたび訳された
Bullet Train(直訳すると「弾丸列車」)
すなわち『新幹線大爆破』というわけです。

安全を確保するためのシステムが
逆に犯人側に利して、管理側の枷となる
という設定(台詞)は、超クールで、
今観ても(読んでも)しびれます。

あと、後半に出てくる工事車両の運転手を見た時、
特撮ファン(本郷・一文字ライダー・ファン)は
随喜の涙を流すんじゃないでしょうか(藁

何といっても、
爆弾を仕掛けられた新幹線の運転手役が
あの人ですからね~。

自分は、一度観てるはずなのに忘れていて、
おおっ、と感動した次第です(苦笑)

オリジナルの映画が公開された時は
自分はまだ中学生だったはずですが、
なぜか劇場で観た記憶があります。
学校の映画鑑賞の企画で観たんだと思うんですが、
もしその記憶が正しいのだとしたら、
学校側もよく見せたなあ、こんな映画(藁

犯罪は割に合わない、
成功しないという結末ではありますが、
明らかに体制批判の臭い色濃いラストで、
例の『禁断の惑星』を借りてきた時に
一緒に借りてきて観直してみましたが、
ラストの丹波哲郎演ずる刑事部長の命令は
今観てもインパクトあります。

往年のテレビドラマ『Gメン'75』に近い
社会派ドラマ的な色あいが感じられるのです。

そうした社会性は、やや薄い感じがしますが、
アチラ版のノベライズ、なかなか出来がいい。
レンタルDVDを観た後に読んだのですが、
オリジナルの映像にかなり忠実で、
映画並みのサスペンスを感じさせる出来でした。

ところで、DVDで観直した時も、
ノベライズを読んだ時も思ったのですが、
映画では宇津井健が演じる新幹線司令所長・倉持、
最後の最後にああいう決断をするのは
いかがなものかとも思ったり。

以下、観ていない人・読んでいない人のために
やや曖昧に書きますが、
大の虫を生かすために小の虫を殺す
という行政の判断は、確かに庶民からすれば
怒り心頭な気もしますけど、
その判断自体は間違っていないと思います。

映画公開当時は、太平洋戦争における
軍司令部のありようなんかもダブって、
宇津井健=倉持の怒りにも
リアリティはあったんでしょうが、
今だと、倉持の決断は、
ややナイーブ過ぎる気もします。

今回のノベライズだと、そこらへんがやや単純で、
行政ではなく、一刑事部長の功名心を批判している
という感じに読めてしまう。

まあ、戦争を知らない世代の感想ではありますが、
思うに、倉持がああいう判断をしたら、
誰がその後をフォローするんでしょう。
倉持が優秀過ぎるだけに、
そんなことを考えてしまうんですけどね。

そういう意味では、
サスペンスの設定は今でも通用しますが、
テーマ的には
いかにも70年代らしい作品だと思います。

後、ノベライズを読んで笑ったのは、
当時、北海道がものすごく田舎だと
思われていたんだなあというところ。

たとえば、54ページには
以下のような文章が見られます。

「四つの大きな島からなる日本で
 一番開発の遅れた北海道は、
 文化的も経済的にも僻地と見なされている。
 大都会で誰かが北海道出身だと言うと、
 あそこの住人はテレビや水洗トイレのような
 文明の利器をいまだに知らない、と
 冗談を飛ばす者が必ずいるほどだ。」

ノベライズ内の設定年代は1978年ですが、
さすがにこれはないんじゃね?(藁

それとも当時のイギリス人(作者)の印象では、
北海道って、そういう印象だったんでしょうか(藁×2