$圏外の日乘-ふたりの距離の概算
(角川書店、2010年6月30日発行)

米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)の
〈古典部〉シリーズの最新刊、第5冊目です。

〈古典部〉シリーズというのは、
何をやるのかよく分からない、というか、
それ自体が謎になっているのが、
確かシリーズの第何作かにあったと思うので、
詳しく書けないのですが、
とにかくそういうサークルがあると思ってください(笑っ

そこに所属する千反田える(ちたんだ・える)が
「わたし、気になります」といった出来事の綾を
省エネで生きたいというのを人生訓とする
折木奉太郎(おれき・ほうたろう)が解き明かす、
というのが基本的なパターンの
学園ミステリのシリーズです。

シリーズ第1作目の『氷菓』が
米澤穂信のデビュー作でもあり、
その第1作をたまたま読んで以来、
新作が出るたびに読んでいます。

今回の新作は、
写真のオビの惹句にもあるように、
古典部に入部した新入生が退部すると言い出し、
その理由を奉太郎が、
学校主催のマラソン大会の間に推理する
という話です。

アームチェア・デテクティヴならぬ
ランニング・デテクティヴという趣向に加え、
タイム・リミット・サスペンスという趣向も
あるのかもしれませんが、
話自体は、日常のさまざまな出来事から
断片を拾い出して、組み合わせ、
後輩の心理を推理していくというもので、
シャーロック・ホームズが依頼人のことを
ピタリピタリと当てるという例の趣向を
長編でやってみせたもの、というのが読後の印象です。

で、ホームズとは違い、
現代日本に生きる高校生である奉太郎は、
名探偵ぶりがあまり好きではない。
後輩の心情に気を遣い、部員の心情に気を遣い、
推理の結果、心に重荷を抱えるような
ことにもなってしまう。

そこらへんの繊細さが、学園ミステリとしての
持ち味になっています。

それはちょうど、同じ作者の傑作
『さよなら妖精』を読んだ後の感じと似ていました。

今、長編だと書きましたが、
奉太郎が回想する過去の出来事は、
それらひとつひとつが
〈日常の謎〉系のエピソードになっていますので、
実質的には連作長編というべきかもしれません。

シリーズものの第5冊目なので、
これまでのシリーズを詠んでいないと
意味が分からない描写もありますが、
それを気にしなければ、学園ミステリとして
楽しめるのではないでしょうか。

今月末にシリーズ4冊目の
『遠まわりする雛』が文庫化されるようですから、
『氷菓』から順に読んでいっても
いいかもしれません。

ちなみに『ふたりの距離の概算』という本、
オビを外したカバーのイラストが
騙し絵みたいで面白いんで、
ちょっとアップしときます。

$圏外の日乘-ふたりの距離の概算(カバー全)