最近、新タマネギをスライスした時の
白さに目を撃ち抜かれている今日この頃です。
(何じゃそりゃw でも、ほんとキレイ)

さて、しばらく最近読んだ本の紹介を
していきたいと思います。

$圏外の日乘-追想五断章
(集英社、2009年8月30日)

作者名は「よねざわ・ほのぶ」と読みます。

お気に入りの作家の本ですが、
今ごろ読みました(^^;ゞ

叔父が経営する古書店に居候している
大学生(事情により休学中)菅生芳光は、
松本から訪れたという客・北里可南子から
叶 黒白(かのう こくびゃく)の小説を
探してほしいと依頼されます。

叶は癌で亡くなった可南子の父で、
生前は創作などに縁のない男でした。
それが、知り合いの大学教授の同人誌や
地方の句会同人誌などに、小説を、
それも結末のないリドル・ストーリーを
五編発表していることが死後に分かって、
それを探してほしいというのでした。

高額の報酬に心惹かれて引き受けた芳光は、
小説を探していく過程で、
22年前にベルギーのアントワープで起きた、
叶黒白こと北里参吾の妻が
ベルギーのホテルで自殺した事件のことを知ります。

北里参吾が小説を発表した意図は何なのか。
そして22年前の事件の真相は——?

……というお話です。
作中には叶黒白の書いた
5つのリドル・ストーリーが
そのまま掲載されています。
これがなかなか面白い。

リドル・ストーリーというのは
結末を伏せて、読者に判断させる体の小説で、
フランク・ストックトンの「女か虎か」
というのが有名ですね(そうなんですよw)。

『追想五断章』に載っている
叶黒白の小説の場合は、
結末部分の原稿が残されていて、
その結末自体が謎ときの場面で
意外な意味を持ってきます。

で、読み終わった第一印象は
「なるほどね」というものでした。

すごい、とか、感動した、とか
いうんじゃなくて、
「なるほどね」です。

で、じわじわと、疑問符が
いくつもいくつも湧いてきました。

それは、謎ときの不整合さに対する疑問ではなく、
この謎ときだと、整合性はあっても、
主要登場人物の心理が「曰く不可解」で
もっと枚数かけて説明がいるだろう、
というような疑問符です。

主要登場人物、特に北里可南子と
菅生芳光は、いろいろと
屈託を抱えこんだに違いないと思うんですが、
作者は謎とき以外の説明はしません。

そういう意味ではオープン・エンド、
空白が多いので、解釈の楽しみはありますが、
ちょっとずるい気もします。

叶黒白の載った雑誌を探していく過程は
とても面白かったし、
その叶黒白の小説はどれも面白かったのですが、
(ビブリオ・ミステリが好きな方にはオススメ!)
何だか物足りなさが残る読後感でした。

謎がすべて解けない物足りなさではなく、
登場人物の進退が気になる物足りなさです。
こう解いちゃっていいのー? という感じかなあ。
(実は叶黒白の、創作動機はともかく、
 エンディング原稿の処理にも、
 疑問符がないわけではありませんで……)

読みの空白がまったくないと、
それはそれで作り物感が強くて引いてしまうし、
小説って難しいものです。



【ウンチク的な註】
ビブリオ・ミステリというのは、
本に関する謎が扱われるミステリのことで、
宮部みゆき『淋しい狩人』とか、
野呂邦暢『愛についてのデッサン』なんかも
入ると思いますので、
(両方ともお気に入り。チョーオススメw)
『追想五断章』もビブリオ・ミステリです。