$圏外の日乘-ベルリン・コンスピラシー
(2008/横山啓明訳、ハヤカワ文庫NV、2010.2.25)

コンスピラシー conspiracy は
「陰謀」という意味です。
だから Berlin Conspiracy で
「ベルリンの陰謀」という意味になります。

カタカナ表記だと何となく良さげですが、
ちょっとストレートすぎるかもしれませんね(藁

で、実をいえばこれは
オリジナル・タイトルではありません。
実際の原題は Charged with Murder で、
「殺人の責任」「殺しの借り」
というような意味になるでしょうか。

ある朝、ユダヤ人の老実業家ルドルフは
警察がドアを叩く音で起こされ、逮捕されます。

ところはベルリンのホテル。
しかし自分は昨夜、
イギリスのホテルに泊ったはず。

訳が分らないまま拘束されたルドルフに
かけられていたのは、
終戦後にナチの残党を処刑した殺人容疑でした。

アメリカ大使館は早速、抗議を申し立てるのですが、
州上級検察官は、殺人に時効はなく、
現在のドイツは法と秩序を重んじるので、
ルドルフは裁判にかけられるといいます。

イギリスにいたはずの自分が
いつのまにドイツに拉致されたのか。
背後に陰謀の臭いをかいだルドルフでしたが、
抗弁する術もない。

そこへ、何年も会っていなかった
息子のギデオンが面会に訪れ、
そのギデオンによって調査が開始される、
というのが、物語の出だしです。

マイケル・バー=ゾウハーはブルガリア生まれ。
ナチスの迫害を避けイスラエルに移住した
という経歴の持ち主で、
イスラエル国防省の
報道官を勤めたこともあるそうです。

昔からの海外ミステリ・ファンにとっては
スパイ小説の書き手として知られている作者の、
本書は実に15年ぶりの新作です。

自分はあまり良い読者ではなくて、
バー=ゾウハーの作品を読むのは今回が初めてですが、
定評のある作家ですので、
出来が良いことは保証済みといえるでしょう。

で、やっぱり面白かったです。

陰謀そのものの面白さよりも、
右傾化するヨーロッパ情勢を見据えてのプロットや
エピローグの処理に、考えさせるものがありました。

あと、ルドルフの訴追を担当することになる
女性検察官マグダ・レナートと、
拘置所で倒れて入院したルドルフと親しくなる
女性看護師ウルリケといった
ドイツの若い世代の描写が興味深かったですね。

2人とも、第2次大戦中のドイツの行為について
深く考えてこなかった、ということになってます。
マグダについては、高校時代に
ホロコースト博物館に行く課外授業に
参加しなかったし、
参加も強制ではなかったと書かれています。

これがドイツの若い世代の現状そのもの
だとはいいませんが、
似たような状況ではあるんでしょう。
ここらへん、日本の若い世代における
戦争の記憶のありかたということを
考えてみずにはいられませんでした。

ギデオンたちの調査が
ちょっと上手く行き過ぎるような気がするとはいえ、
エンターテインメントとして楽しめるし、
さっと読み流せなくもないのですが、
娯楽だけにとどまらない問題意識が感じられて
そこらへんが自分的には良かったです。