
(2007/安藤由紀子訳、集英社文庫、2009.9.25)
下巻のオビにあるように、
エドガー賞=MWA(アメリカ探偵作家クラブ賞)
最優秀新人賞ほか、
各種の賞を総なめにしたという作品です。
でもまあ、そういうことで期待しても、
期待外れになる場合が、ままあるので、
参考程度にとどめて読み始めるわけですが、
今回は、海外での評判通りの出来ばえでした。
1984年の夏休み、アイルランド郊外の森で、
3人の少年少女が行方不明になります。
そのうち1人は発見されるのですが、
残り2人は行方不明のまま、20年の歳月が流れます。
20年前と同じ森の、考古学調査の発掘現場で、
1人の少女の遺体が発見されました。
担当刑事で語り手の「ぼく」ことロブは、
すぐに20年前の事件を思い出します。
それもそのはず、ロブは
20年前の事件の生き残りの少年が
成長した姿だったからです。
20年前の事件のショックで、
当の事件はもとより、
事件以前の記憶も喪失してしまったロブは、
そのトラウマを抱えつつ、
相棒の女性刑事と共に、現代の事件を捜査する
というお話です。
小説のナレーションの時制は、
現在の事件が解決した後という設定で、
このときこうしていれば、ああしていれば、
という語りが入ってきたりするので、
これは「喪失」の物語であることは、
読み初めてしばらくすると気づきます。
それもあって、ある程度、
虞(おそ)れに備え、期待をもって
読み進めたのですが、
最後になって、かくも切なく、
つらい「喪失」の物語になるとは、
思いもよらず……
下巻の238ページ、
犯人が自白してからのリーダビリティは
ハンパじゃありませんでした。
読み始めてすぐに、
アメリカの優れたミステリ作家のひとり
トマス・H・クックの
〈記憶〉シリーズにも似た雰囲気だなあ
と感じたんですが、
クックにどこまで迫れるかと思いつつ
読み進めたんですけど、結果的には
クックの最良作(『夜の記憶』とかね)に
優るとも劣らぬ出来ばえでした。
最近、クックの翻訳が途絶えているので、
タナ・フレンチの作品を読めたことは、
欣快のいたりでございます。
ちなみに、下巻の最終章、
395ページからのフラグメントでは、
あまりの切なさに、泣きそうになったこと、
付け加えておきます。
泣くか泣かないかは、
個々人のTPOによるのですが、
今回はよっぽど自分のツボを突いたらしく、
かーなーり、ヤバかったです(苦笑)