前に紹介したレオンハルトのCDは、
いずれも歴史的チェンバロで録音されています。

歴史的チェンバロというのは、
バロック時代に使用されていた楽器を基にして
現代の職人が復元したレプリカ(複製)です。

この2枚の録音の一番の違いは、
演奏しているチェンバロの製造元です。
テルデック盤はドゥルケン・モデルの
フレーミッシュ・タイプの楽器を
(フレーミッシュはフランドル地方のことで、
 オランダ南部・ベルギー西部・フランス北部
 辺りの地域を指します)、
DHM盤はブランシェ・モデルの
フレンチ・タイプの楽器を、使用しています。

といっても、ブランシェは
リュッカースのチェンバロを改造したりもしているので、
フレーミッシュ・タイプの改造版かもしれません。

ドゥルケンとブランシェ、リュッカースは
チェンバロ製造で有名な一族の名前です。

バッハが生きていた当時、
国によって(製作者によって)
チェンバロの音色は微妙に異なっていたようです。
つまり、お国柄があったということですね(藁

そのへんの話は、チェンバロ奏者でもある
渡邊順生(わたなべ・よしお)の大著
『チェンバロ・フォルテピアノ』
圏外の日乘-チェンバロ・フォルテピアノ
(東京書籍、2000.9.4)に、詳しく書いてありますが、
それによれば、ドゥルケン・モデルは、
60~70年代のレオンハルトの録音で頻繁に使われた
歴史的チェンバロの象徴的存在だったようです。

それがなぜ、DHM盤で
フレンチ・タイプに替えたのか。

おそらくそれは『ゴルトベルク変奏曲』が、
フランス趣味の楽曲スタイルや
フランス由来のダンスに基づく曲が
多いからではないかと、最近は思っています
(レオンハルトって、そういう理由で
 再録しかねない人なんですw
 そこがまた、萌えのポイントなんですがww)。

あと、DHM盤が出る2年前の1974年に、
バッハ直筆の訂正が入った『ゴルトベルク』の出版譜
(いわゆる手拓本[しゅたくぼん]ってやつ)が発見された
ということもあって、再録音されたんだと思います。

この2枚の内、オススメはDHM盤です。
とにかく音が柔らかくて、耳に優しい。
ドゥルケンの楽器は大振りで、
録音のせいもあるのかもしれませんが
(楽器が大きいせいかもしれません)、
ちょっとギスギスしている感じがします。
それに対してブランシェの楽器は、
音が柔らかく愛らしい印象で、
さすが、おフランス(個人の印象です。【笑っ )、
チェンバロの魅力全開、といった感じです。

唯一の不満は、
トータル・タイムが47分23秒しかないこと。
レオンハルトは、バッハの楽譜に指示されている
繰返し演奏(ダ・カーポ)を
いっさいやらないで録音しています。

古楽の泰斗レオンハルトにして、
ダ・カーポをやらなかった理由は、何なんでしょう?

謎です。

ま、案外、レコードというメディアの
再生時間の関係かもしれないんですけどね(藁