
(2007/嵯峨静江訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2009.4.15)
アメリカ発、新人の第一長編です。
短編小説は発表していたようなので、
まったくの新人とはいえませんけどね。
最初にいきなり、本書のヒロイン
ルシア(通称ルーク。15歳)の父親が
ショッピング・モールの駐車場で殺されます。
武装強盗のしわざかと思われたのですが、
物語が進む内に意外な展開になっていきます。
殺された父親は北欧神話を教える大学教授で、
ルークは幼い頃から、父親から北欧神話について
いろいろと聞かされてきたことが、
物語の進行とともに、
ルークの回想を通して分かってきます。
本のオビに「クセモノ作家たちを/驚愕させた」
とありますから、それに惹かれて読み進めたんですが、
途中までは、
ありきたりの犯罪小説かなあ、という印象でした。
ミステリを読む時は、
サブ・ジャンルがなかなか判明しないことがあります。
サブ・ジャンルというのは、物語のパターンですね。
たいがいのミステリは、最初から分かっていますけど、
時として、狙いが何か分からないまま
読み進めているような感じの時もあるんです。
それが読書の醍醐味ともいえなくもない。
だから「訳者あとがき」や「解説」は、
小説本文を読み終わるまで、読みません。
カバー裏のあらすじも、できるだけ読まない。
文庫の場合、こういう読み方、オススメですよっ
というと、今、このブログを読んでいる人に
このブログを読むな、といってるみたいで、
ヘンなのですが(苦笑)
それはともかく、『弔いの炎』の場合、
350ページあたりまで読んで思ったのは、
これはノワールだな、ということでした。
520ページ中350ページですから、かなり遅いf(^^;
ノワールというのは、ハードボイルドな犯罪小説、
というのと、ほぼ同義です。
だから、残酷なシーンもあります。
論理的に詰めて犯人を当てる
というタイプの小説ではありません。
で、ノワールだな、と思ったのと同時に、
かなり知的な小説だな、と思いました。
というのも——
殺された父親が北欧神話の研究者だと書きましたが、
ヒロインは時々、北欧神話のキャラクターを幻視します。
ノエルとか女神とか、そんなキャラを、です。
幻視すると書きましたが、現実の法(のり)を超えずに
実際にいる感じで書かれているのです。
というわけで、350ページの時点で、この小説は
ヒロインを神話のキャラに託した北欧神話の現代化作品、
というふうに思うに至りました。
よく犯罪小説で、少女を主人公にして、
ギャングなどのキャラを幻獣に見立てた、
犯罪小説版〈不思議の国のアリス〉
みたいな組立てをする小説がありますが
(知りませんか? あるんですよっw)、
ちょうどそれと同じ感じ。
現代を舞台に、神話的枠組みを立てて、
少女の流離譚(ないしは地獄巡り)という形で
ストーリーやキャラを描いているのですね。
見かけは、
現代アメリカ(の地方都市)を舞台とする犯罪小説です。
ただし中身は、北欧神話に仮託した少女の冒険譚、
死と再生の物語です。
また、少女の新生を描く物語のパターンとして、
夏(休み)の体験を通して大人になる、
というのがありますけど、
その伝でいえば、本書は
冬(休み)の体験を通して大人になる少女の物語です。
プラス・アルファとして、
女性たちの精神的紐帯のようなものが描かれます。
構成(物語的仕掛け)は知的な小説なんだけど、
出てくる男は、ヒロインの父親を除いて
バカばかりです(苦笑)
バカな女もいっぱい出てきますけど、
ヒロインの母親を除いては、
肯定的に描かれている気がするなあ。
ヒロインの母親がバカである理由を書くと
ネタ割りになりそうなので、
気になる方は、読んで確認してみてください
(ある種の女性にとってはOKかも。う~ん【悩 )。
いろんなキャラがバカじゃないと
成り立たないようなプロットで、
物語的には意味のあるバカなんですけどね(苦笑)
まあ、その意味でも、知的に組み立てられた小説なわけです。
視点人物の一人である女性刑事が、
離婚して別れた子供との関係回復に苦労する
というお話は、もう読み飽きた感じ。
プライベートと捜査からくるストレスで
ヒステリーを起こしてますが、そうでなく、
冷静に捜査を進めるキャラの方が好みなもんで(^^)ゞ
こういう知的な構成の小説は嫌いじゃありませんが、
登場人物も知的じゃないと、
読み進めるのは、ちょっとつらいですなあ。
ミステリ的な仕掛け(サプライズ)も
途中ちょこちょこあるので、
読み終えられましたけどね。