圏外の日乘-ディミティおばさま現わる
(1992/鎌田三平訳、ランダムハウス講談社文庫、2008.9.10)

本のオビにも小さく書いてある通り、
アメリカのミステリ専門書店協会員たちが選んだ
イチ押しミステリ100冊の中に選ばれた1冊です。

その100冊についての紹介文をまとめた、
『書店のイチ押し! 海外ミステリ特選100』(2000)
圏外の日乘-書店のイチ押し!海外ミステリ特選100
が早川書房から翻訳されたのは、2003年10月のこと。
その当時、『ディミティおばさま』は未訳でした。
それから5年の月日を経て、
ようやく翻訳されたという次第です。

去年、出た時点で買っておいたのですが、
コージー系のアメリカ・ミステリということもあり、
何となく読みはぐっていたのでした。

〈ディミティおばさま〉というのは、
主人公のロリ・シェパードが、幼い頃、
母親から聞かされていたお話の登場人物で、
どんなに辛い事があっても、
持ち前のユーモアで乗りきってしまう
というキャラクター。

ロリは、夫と離婚し、母親と死別して、
大学図書館の司書としての仕事も失い、
派遣社員として僅かな収入を得ながら、
貧乏暮らしを送っていました。
そんな負のスパイラル状況にいたロリの許に、
ある日、弁護士事務所から手紙が届きます。
イギリスに住む老婦人
ディミティ・ウェストウッドが亡くなり、
その遺言状を預かっているというのです。
お話の登場人物だったディミティおばさんが
実在していたことに驚きつつ、
ロリは弁護士事務所を訪ねるのですが……

遺言状で依頼された仕事を片づけるために
イギリスに向かったロリは、
さまざまな人と出会い、大事な人々の過去を知り、
次第に生きる力を回復していくという物語です。

ジャンルとしてはミステリになるのでしょうが、
謎はあっても殺人事件はありません。
ミステリというより、児童文学の秀作を読んでいる感じ。
日本の作家でいえば、加納朋子の作風を思わせます
(ドラマにもなった『てるてる あした』の原作者です)。

ファンタジックなシチュエーションの面白さを
ドタバタに堕さない程度に描くコメディ・センスと、
ユーモラスな語り口は、当方の趣味に合いました。
ただ結末が、個人的には、
大甘だとしかいいようがありません。
ちょっと、おとぎ話的な度合いが過ぎる気がします。

でも、何ていえばいいかな、
子供の頃、大切にしていた本(物語)があって、
それを大人になってから読み直して、
思いを新たにして、また生きていくことができる、
そういう本(物語)を持っている喜び、
みたいなものが、大甘な中にも感じられて、
その感覚は、いいなあと思いました。

自分も負のスパイラルに陥っている
と感じている女性で、
物語に癒されることに抵抗がない方、
そういう時こそ読書に救いを見出す方、
極端なリアリストでない方にはオススメです。

性差で好みを判別するのは、
それこそ好みではありませんが、
男性にオススメしたい、
という感じの本ではないですね。
基本的にガーリッシュな方向に
針が振れている小説だと思います。

『ディミティおばさま現わる』はシリーズ第1作で、
第2作目が、今月、出るはずなので
(もう店頭に並んでいるかもしれません)、
ちょっと読んでみようかなと思っています。