
『ゼロ時間へ』は
榛野なな恵『チムニーズ館の秘密』に収録されている
「ソルトクリークの秘密の夏」の原作です
(まんがの方は児童文学のタイトルみたいw)。
手許にあるハヤカワ・ミステリ文庫は
1978年12月15日発行の第7刷。ということは、
高校生の時に新刊本屋で買って読んだものですが
(あ、年齢がばれるw)、
榛野の本を買ったのをきっかけに、
再読してみた次第です。
現在流布しているクリスティー文庫版と
訳者は違うようですが、
原作が1944年刊ですから、
旧訳の方が時代色に合っていて、いいかも。
風光明媚な漁村ソルトクリークに建つ館に、
毎夏、避暑に訪れていたテニス選手ネヴィルの発案で、
今年は、彼の別れた元の妻が招かれていました。
現在の妻と仲良くさせようという意図なんですが、
元の妻をいまだに愛する素振りを見せるネヴィルの様子に
現在の妻がヒステリーを募らせ、不穏な空気が流れます。
そんなおり、館の主人でもある
ネヴィルの後見人の老未亡人が殺されます。
ネヴィルが殺したという証拠がぞろぞろ出て来るのですが、
捜査に協力するバトル警視は何となくしっくりこない。
それらの証拠は、ネヴィルを陥れようとする罠ではないか……
はい、これバトル警視ものの作品なんです。
しかも、バトルが主役を張る(唯一の)作品です。
今回、読み直してみて、
原作の設定(舞台背景)をちょっといじれば、
現代でも充分通用する、
むしろ現代の方が通用するプロットだということが、
旧訳で読んでも、よく分かりました。
榛野なな恵のコミカライズ作品は
70ページほどにまとめられていますが、
今回は見事にアレンジされています。
クリスティーの原作で重要な役回りを果たす
失業して失恋した自殺未遂青年が、
まんがの方では、自殺未遂のあと
原作にない登場人物の秘書という役割が与えられて、
ストーリーの狂言回しとして、うまく活かされています。
そのキャラ・アレンジのおかげで、
クリスティーの原作とは違う
ユーモラスな味わいが醸し出されていて、
ちゃんと、榛野なな恵の作品になっている。
これには脱帽しました。
原作の前半は恋愛小説風ですし、
ミステリ的なメイン・アイデアは単純なものなので
(でも、初読時は見事に騙されましたよ。
未読の方には、おすすめです)、
少女まんがにぴったりハマる、
というところもあるんですけど、
原作では解決の後にバトルに話される、
ある人物だけが気づいた、ある場面が、
コミカライズでは、話の途中に
意味あり気に挿入されていて、
この処理には感心させられました。
原作を読んでからコミカライズ作品を読むか、
コミカライズ作品を読んでから原作を読むか、
かなり迷うところですが、
ぼくは、原作を先に読んだ方が
アレンジの見事さが分かって、
まんがを、いっそう楽しめると思います。