
『忘られぬ死』は、
榛野なな恵『チムニーズ館の秘密』に収録されている
「追憶のローズマリー」の原作です。
これも未読だったので、
榛野の本を買ったのをきっかけに、
この2月に読んでみました。
写真・右のはハヤカワ・ミステリ文庫版。
現在流布しているクリスティー文庫版と、
訳は同じはずですから、買い直さず、
古本屋で買っておいた(でも未読w)
手許にあった版で読みました。
妻であるローズマリーが、
誕生パーティーで自ら毒をあおって死んだ
とされていることに納得がいかない夫ジョージが、
一年後、同じ場所(ホテルのレストラン)で
ローズマリーの妹の誕生パーティーを開き、
犯人を追究しようと計画します。
ところがその会場で当のジョージが
毒殺されてしまいます。
主要登場人物が比較的、少ないので、
榛野なな恵のコミカライズ作品は、
例によって60ページほどに刈り込まれているものの、
かなり原作の雰囲気を忠実に伝えています。
今回はまんがの方を読みかえすことで、
トリックやストーリーを思い出すのに役立ちました。
少ない登場人物の中で展開される
トリックが仕掛けられた謎ときミステリなので、
詳述はできないのですが、
クリスティーの手筋(パターン)を知っていれば
ある程度犯人の見当はつきます。
が、犯人の見当はついても、
毒殺トリックや意外な人間関係や
それに基づく動機など、全てを読みとるのは
至難の業でしょう。やっぱり書き方が巧い。
1945年に刊行された作品なので、
『チムニーズ館の秘密』の能天気さはありません。
ただ、三組のカップルを登場させて、
さまざまな愛の形を描いているあたりは、
さすがにクリスティー、堂にいったものです。
個人的には、貴族の妻と結婚して地位を得、
出世途上にある新進政治家スティーヴンと
その妻ファラデーの関係が印象に残りました。
スティーヴンはローズマリーと不倫の恋に陥り、
そのせいで事件に巻き込まれ、
政治生命を危うくするのですが、
そのスティーヴンを飽くまでフォローして、
夫婦関係を回復するに至るファラデーはすごいです。
夫の不倫にヒステリーを起こし
事態を紛糾させるだけの、
よく小説に出てくる凡百の愚妻とは大いに違う。
計算高いような気もしますが、
クリスティーはそういうふうには描いていません。
男にとって都合がいい女性という印象を与えず、
かといって計算高いという印象を与えず、
女の矜恃(意地?)という雰囲気も出しつつ、
愛のひとつの形として描いているのが
すごいというか、巧いというか。
ま、こういうふうに読むのも、
自分が男性であるからかもしれませんがね(藁