
榛野なな恵『Papa told me ~街を歩けば~』
を買った時、カバー袖を見て、
こんな本がいつのまに……とびっくりして、
慌てて購入したのが写真・左の本。
クリスティーの原作は未読だったので、
まずはそちらから読もうと思ったのですが、
あいにく手許にあったのは
まんがが基にしている早川書房版ではなく、
写真・右の創元推理文庫版。
だからタイトルは『チムニーズ荘の秘密』で、
作者名も「アガサ・クリスチィ」
ちょっと違います(藁
クリスティーの原作は、抱腹絶倒のスリラーでした。
1925年に発表された作品だけあって、
若い頃の才気走った書きっぷりが楽しめます。
「訳者あとがき」で厚木淳が
「音楽好きなクリスチィが
オペラ・コミックを意識して書いた
粋なスリラー」と書いていますが、
まったく同感です。
登場する探偵役は
スコットランド・ヤードのバトル警視。
ただし主役は、冒険好きの青年アンソニー・ケード。
ふとしたきっかけで訪れたチムニーズ館で
(イギリスのカントリー・ハウスですから
チムニーズ「荘」よりチムニーズ「館」の方が
イメージ的にぴったりきます)、
アルセーヌ・ルパンみたいな謎の怪盗も絡んでの
殺人事件に遭遇し、アマチュアらしく大活躍する
という、お話です。
この、360ページに及ぶ底抜けに楽しい話
(400字詰め原稿用紙に換算すると700枚ほど)を
榛野なな恵は60ページほどにまとめています。
何人かの登場人物やエピソードを刈りこんだ上、
原作の伏線を拾いきれていないので、
ミステリとして上々の出来とはいえませんが、
作品の雰囲気はよく出ていて、
これはこれでOKかも。
唯一、違和感があったのは、
外交官未亡人ヴァージニア・レヴェルが
原作よりもちょっと大人びている点かなあ。
今回、原作を読んで感銘を受けたのは、
バトル警視がアンソニーに
上流階級論を展開する場面です。
そこでバトルは
「自分の意見以外は
だれの意見も問題ではないということを、
何代にも渡って習慣づけられてきた、
はえぬきの」上流階級人は、
「頭に浮かんだことをすぐ実行に移すだけで、
他人にどう思われるかというような思惑を
気にかけ」ないので、
「大胆で、正直で、時にはひどく間が抜けている」
と言っています。
なるほど~、
だからクリスティーを始めとする
この時期のイギリスの
謎ときもののミステリは、
上流階級社会を舞台にするんだねえ、と
妙に腑に落ちたことでした。
ちょっと得した気分です(笑っ