「釣り手の手首を立てる」に関する考察 | 柔道が足りてない!

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昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

柔道でよく「釣り手の手首を立てろ」と言いますが、何故、釣り手の手首を立てるのが良いとされるのか、考えてみたいと思います。

その前にまず、「釣り手の手首を立てる」というのは具体的にどのような状態なのでしょうか?

文字通りの意味で捉えると、手首を小指側、掌側、手の甲側、親指側のいずれにも倒さず、前腕と手の甲が一直線になるような状態の事を指すと思いますが、柔道では相手の前襟を握った釣り手の手首を橈屈(とうくつ)させる(親指方向に曲げる)ように力を加えた状態の事を指す場合が多いようです。

しかし、上記のように釣り手の手首を橈屈させただけでは、実はあまり効果はありません。

 


実際に柔道で手首を立てる動作を効果的に使おうとすると、手首を橈屈させる動作に加えて、肘を曲げて前腕を鉛直方向に起こすという動作もセットで行う必要があります。

つまり、柔道では暗黙的に「釣り手の手首を立てる」=「釣り手の手首を橈屈させる釣り手の肘を曲げて前腕を起こす」という意味合いで使われるケースが多いです。

但し、用語の曖昧さ故か、「釣り手の手首を立てる」が必ず上記の意味合いで使われるかというと、そうとも限りません。

文字通り、前腕と手の甲が一直線になる状態の事を指す人もいますし、グリップの方向(手相で言うと感情線の方向)を鉛直方向に向ける(「縦拳」にする)事を指す人もいますので、「釣り手の手首を立てろ」と言われた場合には、具体的にどういった状態の事を指しているのか一度確認しておいた方が良いでしょう。



それでは次に、何故このような形が良いとされるのか?についてですが、理由のひとつとしては釣り手を落とされ難くするためと考えられます。

釣り手の前腕が水平方向のまま素直に相手の襟を握ると、グリップの方向と襟の方向が一致し、襟はまっすぐなままなので、レールのように襟に沿って握りを下方向にずらされ易くなります。


ここで、釣り手の肘を曲げて前腕を起こし、橈屈させるように力を加えると、襟はグリップした部分でS字に折れ曲がるため、握りを下方向に落とすのが困難になります。


※余談ですが、釣り手の肘が伸びて前腕が水平方向のままであっても、かいなを返すようにしてグリップの方向を横にすることで、相手の襟をS字に捻って、釣り手を落とされ難くする方法もあります。


もうひとつの理由としては、技を掛ける瞬間に釣り手の手首を橈屈させて肘を曲げることにより相手を前方に引っ張り出して崩すことができるため、この組み手がより攻撃的な型であると認識されているという事が挙げられます。

 


さらに、ケンカ四つで相手の釣り手の上から襟を持った場合には、こちらの釣り手の肘を曲げることで、前腕や肘を使って相手の釣り手に上から圧を掛ける事もできます。


一方で、釣り手の肘を曲げると、それだけ相手との間合いが近くなるため、接近戦勝負となり、相手の技をモロに食らうリスクも高くなります。

 

また、相手との間合いを確保したり、力をいなしたりするために、敢えて肘を伸ばしたい場面もあると思いますので、状況に応じて臨機応変に使用するのが良さそうです。