エルミタージュ美術館の所蔵品展は、何年か毎に我が国で開催されている。
石油・ガスや金、ダイヤモンドなど一次産品以外の外貨獲得手段に乏しいロシアにとっては貴重なコンテンツである。
今回は「大エルミタージュ美術館展」と大きく出た。「オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」の副題が付いている。
コンセプトは16世紀から18世紀に掛けて、古典派からバロック、ロココ絵画への系譜を、イタリア・スペイン・オランダ・フランドル・フランス・ドイツ・イギリスの代表的な画家の作品で俯瞰しようとする試みである。
場所は六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリー。ケレン味たっぷりのエルミタージュ美術館に相応しい、現代のバベルの塔である。
しかしゴールデンウイーク前夜の金曜日にしては、展覧会の人の入りはそれ程でもなかった。
ティツィアーノ、レンブラント、ブリューゲルらビッグネームの作品はあることはあるが、大半が我が国では馴染みの少ない画家の作品が多いからだろうか?
しかし空いていたからじっくりと観賞出来たことに加えて、美女の肖像画のオンパレードは、都会の喧騒に疲れた観賞者を癒すに充分な効果があった。期待していた以上の展覧会であった。
いの一番に展示されているのはエルミタージュ美術館生みの親であるエカテリーナ二世の肖像。エリクセン作である。厳密な意味での美女ではないが、堂々たる佇まいに敬礼である。
ティツィアーノ「羽飾りのある帽子を被った若い女性の肖像」。有閑マダムの貫禄充分である。
カルロ・ドルチ「聖チェチリア」。殉教者なのだろうが、妖艶な表情が観る者を惹き付ける。
スルバラン「聖母マリアの少女時代」。とても聖母マリアには見えないが、清楚な雰囲気が良い。
クラーナハ「林檎の木の下の聖母子」。オーソドックスな構図だが、母子共に只者ではないオーラに満ちている。
私のイチオシはジャン・バティスト、サンテール「ヴェールをまとう若い女性」。何を考えているか分からないが、妙に心惹かれる表情は、まさにファム・ファタールか。
最後に紹介するのは、ムリーリョ「幼子イエスと洗礼者聖ヨハネ」。自分も幼いのにイエスを護ろうとするヨハネの健気さに参った。
見終わった後は欅坂を通って麻布十番から地下鉄に乗った。我が国屈指のハイソなエリアなのだろうが、今ひとつ馴染めない街である。
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