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隅の老人の部屋

映画やドラマの紹介。感想を中心に
思い出や日々の出来事を書き込んでいこうと思います。

バカリズム脚本で古田新太がベートーヴェンというので
ナンセンスコメディかと思ったら、
きっちり練り上げられた歴史ミステリーに仕上がっていました。
山田裕貴扮する音楽教師が生徒にベートーヴェンの伝記を書いたシンドラーについて語るという二重構造のドラマになっています。

ベートーヴェン(古田新太)の晩年に秘書となったシンドラー(山田裕貴)は彼の狂信的なファンで、
ベートーヴェンを伝説的な英雄としてまつり上げるためには、ベートーヴェン本人すらないがしろにすることがあるほどです。

第9の初演時には全盛期を過ぎたベートーヴェンに再び注目を集めるため、
耳の聞こえないベートーヴェンが舞台上で醜態をさらすリスクを無視して指揮をさせたりします。
シンドラーは表面上献身的に働きますが、空気を読まず、相手の感情も無視することが多く、
サイコパスな一面を感じさせて人間的には嫌われ者でした。
史実でもベートーヴェンの書簡にシンドラーの悪口が書かれていたそうです。

シンドラーの行動はベートーヴェンの死後、さらにエスカレートします。
ベートーヴェンの自己中心的だったりかんしゃく持ちだったりする人間的な面を消し去り、
ひたすら音楽的な才能を称えた英雄談的な伝記を創り上げようと策を練りました。
犯罪と自覚しつつも資料を盗み出し、それを改ざんしてしまいます。

しかも関係者が次々と亡くなり、シンドラーの嘘を指摘できる者もいなくなって、
まさに独壇場となってしまいました。
まあ生き残った者勝ちというのは一つの真実で、
私もできれば長生きしたいものです。

終盤にはシンドラーが書いたベートーヴェン伝の矛盾点に気づく司書で研究家のセイヤーが登場、
この探偵役ともいえるキャラクターを染谷将太がなかなか恰好よく演じていました。
セイヤーも実在していて、Wikiによると資料を基にした正確で信頼できるベートーヴェンの伝記を出版し、
音楽学のみならず、伝記というジャンル自体を発展させた人物だということです。
史実に基づいてセイヤーはシンドラーの伝記の矛盾点を公表しない展開になるので、
映画的にはカタルシスに欠けるのが少し残念でした。
シンドラーの改ざんが明らかにされたのは1977年の国際ベートーヴェン学会とのことです

山田裕貴は異様な情熱に憑りつかれていく男を好演していました。
幅の広いキャラクター作りが魅力で、次回の「爆弾」(予告編ではいわゆる胸くそ映画を感じさせています)
も期待してます。

古田新太も気分屋で俗物的なおっさん演技がハマっていて、
本物のベートーヴェンってこんな感じだったかも、と思わせる説得力がありました。
古田新太は60歳前にしては老けて見えてちょっと不安になりましたが、
肉体的にもかなりハードと思われる劇団☆新感線のステージをこなしているのだから、
健康面の問題はないのでしょう。
これからの活躍も楽しみです。

冒頭の学校シーンで古田新太が教師を演じていて、何かオチがあるのかと思いましたが、
これは単なるお遊びだったようです。