監督の意図は分かりませんが、
自分の受けた印象で言うと、
この作品は細田監督にとっての「地獄の黙示録」なのではないかと感じました。
ヒロインのスカーレットは仇敵を求めて地獄めぐりのような旅を続けます。
死者の国の物語ですが、登場人物のすることは生前と変わりません、
ヒロインはひたすら仇を求め続け、
日本から来た看護師の聖は人を助け続け、
冷酷な国王は死者の国でも権力を求めて民衆を支配下に置こうとします。

過酷な旅の中で二人の主人公は少しずつ変わっていきます。
復讐にのみ生きてきたスカーレットは平和な時代に人生を楽しみたかったと哀しみ、
聖は愛する者を守るため敵に弓矢を射るようになりました。
国王だけは変わらず、自らの欲望のために一切反省などせず善良な人間を欺こうとし続けます。
赦しさえ無駄な存在が、この世には在るということもこの作品は描いています。
スカーレットが赦したのは国王クローディアスではなく、
あくまで自分自身で自己を復讐から解放したのだと感じました。

描かれる死者の国の世界観は分かりづらい部分もありました。
もし時間を超えて死者が転移するなら人類の歴史に存在したすべての人間が一挙に現れることになります。
何かの意思が働いて現代から聖だけが時間を超えて呼ばれたという設定なのでしょうか。
死者の国が第2の生として描かれ、そこで死ぬと消滅するという設定も微妙でした。
通常だと想いを遂げたときに昇華していく設定が多いと思うのですが。
クローディアスの最期についての描写も、スカーレットからも民衆からも見放され、仇としての存在価値すら失った彼がアイデンティティの崩壊を起こし消滅してしまうとかした方が納得しやすかったのではないでしょうか。

旅の途中のエピソードはわりと普通で、
もうちょっと毒があったほうが良かったかな、という気がしました。
ラストの展開も、物語を希望で締めくくりたかったのは分かりますが、ちょっと安直な印象を受けました。
アニメとしての絵の完成度はものすごくて、
書き込まれた群衆シーンとか圧倒されました。
技術的には「「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来」とも並ぶ世界最高水準なのではないかと思います。

声の出演者もなかなか頑張っています。
予告編ではちょっと芦田愛菜のセリフに不安を感じていたのですが、
ドラマの流れの中ではそれほど違和感を覚えませんでした。
製作費は知らないのですが、
劇場は空席が目立ち、細田監督作品とは思えない状況だったので、なんだか心配になりました。


