映画感想 歌舞伎の天才が頂点を目指す「国宝」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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血筋が最優先される歌舞伎の世界で
天賦の才能だけで芸の頂点を目指す主人公を描いて
3時間近くを一気に見せる力を持った作品でした。

まだ各地で地元のヤクザが興行を仕切っていた1960年代から物語は始ります。
宴会でその芸に魅せられた歌舞伎名門の花井半二郎は
孤児となった主人公・喜久雄を引き取り、
そのことから長い年月にわたる喜久雄と半二郎の実子・俊介との
友情と確執が続いていきます。

どれだけ実力があっても歌舞伎の血筋を持たない者は後ろ盾を失えば端役しかできず、
長年現場を離れていても血筋があればいきなり大御所扱いになる世襲制の世界。
それだけでも魑魅魍魎と感じてしまいます。

3人の歌舞伎役者の、舞台にかける狂気にも近い執念が迫力たっぷりに描かれ圧倒されました。
特に実際に舞ってみせる吉沢亮と横浜流星の努力は並々ならぬものがあっただろうと思います。
ひたすら芸を磨く喜久雄と
いかにも名家のボンボンらしく芸も精進しながら遊びにもふける俊介
それぞれの生き方がきっちり演じられていました。
結果的に3人の女性の愛情をふみにじることになって、
それでも芸の追及を優先させる喜久雄が自分の性(さが)に苦悩する屋上の場面は特に印象的です。

終盤、どのようにして主人公が歌舞伎の世界に復帰していったのかが省略されているのが
個人的には少し残念でした。

李相日監督はフィルモグラフィーを見て意外に寡作なのに驚きました。
1作品に十分な準備期間を設けて
じっくり作りこんでいるということなのかもしれません
「フラガール」(2006)以降の長編作品はすべて見ています。
いずれも見ごたえのある優れた作品で、
映画界を支える監督の一人と感じています。