イギリスの実話を原案に、父子の絆を描いた佳作となっています。
冒頭から横須賀のちょっと異国感のある華やかな雰囲気が描かれていて引き込まれました。
元歌手志望でセミプロとして地元にはファンも多い父親がアルツハイマー型認知症を発症し、
イラストレイターの主人公は母親と協力して介護を始めるという物語です。
始めは前向きに受け止める3人ですが、
症状が進行すると暴力的な行動に出ることもあり、
介護の難しさと、
それでも一緒に暮らしたいという家族の情愛が描かれています。
ここでは松坂慶子の演技が光っていました。
ドラマの一つの核として、
主人公は30歳になったときにゲイであることを告白して両親の理解を得ているのですが、
内心では本当に今でも父が自分を愛してくれているのかどうか葛藤を続けていて、
松坂桃李の繊細な演技力が発揮されています。
父親役の寺尾聰も感情がコントロールできずに表情が急変するさまが見事で、
歌唱シーンも同時に3曲をベストテン入りさせた昭和の名シンガーだけあって魅力にあふれていました。
三宅裕司、石倉三郎、佐藤栞里が演じる周囲の人々も皆善良なのですが、
自分が生まれた日が父親のオーディションと重なったため父が歌手をあきらめたことがネタにされるとき、
主人公はひそかに心を痛めています。
この過去の痛みが原動力としてあるので、
父親のプロデビューの夢をかなえることが自分の夢となっていく展開に説得力が感じられました。
主人公の恋人役を演じたディーン・フジオカは「パリピ孔明」に続いて
”場を盛り上げるにはふさわしくないマイナー調の唄”で美声を披露しています。
ラストのほうで多少ファンができたことが描写されるので安心しました。
父親の言葉に主人公が救われるラストシーンも素敵でした。
全作見ているわけではないのですが、
個人的に近年の松坂桃李と岸井ゆきのの出演作はハズれが少ないと感じていて、
(「ガッチャマン」(2013)くらいまでさかのぼってしまうと話が変わってきますが)
今回も当たりでした。