ふふ



川口雅行氏のラストリサイタルに行ってきました。実は演奏会に行くのも3年ぶり、横浜から多摩川を渡って東京に行くのも3年ぶりです。それほどに感染を恐れて巣籠していたのですが、「ラスト」と聞いて、これを逃したら聴きそびれると思い、東京行きを決意しました。とは言え私的にはまだ自粛警戒中なので当日は予防の為イベルメクチンを服用しました。

会場に入ってプログラムを渡されたのですが、驚いた事にチラシと同じイラストがプリントされたファイルに入ってました。このイラスト、何となくほのぼのとしていて好きだったので、少し得した気分になりました。プログラムを見ていたら開演直前には満席。なかなかマンドリンの演奏会ではありえない事です。ラストだからか。

さてプログラムの最初はヘルマン・ヘッセの詩の朗読の後にマンドリンで情景を表現するというもの。作曲は壷井氏。始めの部分は無調性の現代曲のような感じで、どうなるかと思ったが、調性ある綺麗なアルペジオや和音が続く、最後の希望の一遍は綺麗なトレモロで締めくくられる。アルペジオはむらがなく、和音も綺麗に響かせる。どうしてラストなのと思ってしまう。

次は森たかみち詩集を歌にしたもの。マンドリンは伴奏と間奏。

主役はテノールだが、ヨーロッパの歌劇場を渡り歩いてきた人なので、凄く上手い。特に最後の方の3曲ほどは抒情的でマンドリンとテノールの掛け合いが上手く合っていた。ただ音量的にもう少し控えめに歌われたら、バランスが取れたと思う。

休憩を挟んで、最後は川口氏の青春時代の思い出の曲を5曲。川口氏の面白い話もあり会場も和む。学生時代は3Mとかでマンドリン、麻雀、漫画ばかりしてたので、学業に手が回らなかったとか、ドイツ修行時代はギターマンドリンの先生が少ないので、生計の足しになり助かったとか、ドイツでLPレコード安く売られていて、そこでクララハスキルのモーツアルトのレコードに出会っとか、、、、。1曲目のちゃっきり節からチェロとの掛け合いが面白い。チャルダッシュは出だしがチェロはだったが、マンドリンが歌わせるのも聴きたかった。またもう少し早い早弾きを期待したのだが、少し残念。琵琶湖周航の歌とローレライのトレモロで歌わせる部分はムラがなく、音量の変化も自在。これほどまでにトレモロを綺麗にマンドリン奏者はそうはいない。まさに模範、目標とする存在。最後のモーツアルトは編曲も良かったのか、原曲がピアノ曲とは思えないほど自然な掛け合い。チェロのふくよかな音色に抱かれながら、綺麗な単音やトレモロが駆け巡る。素晴らしい至福のひと時でした。

アンコールはマンドリン独奏でプッチーニの私のお父さん。無伴奏独奏なので、伴奏部分と主題を上手く引き分けてトレモロで上手く歌わせました。冒頭からノーミスで衰えは感じさせません。

最後のアンコールはテノール、チェロも加えての帰れソレント。

ここもテノールの声量は凄いのだが、マンドリンの音が聴こえなくなるのが残念だった。

ところで、今なぜ「ラスト」なのかが気になります。現在75歳、年齢的にもまだ続けられると思うし、80過ぎて現役の演奏家も今まで多くいました。ただ確かに演奏家は同じ芸術家と言っても画家や小説家と違い、手足や神経の俊敏さが求められ、半分スポーツマンのような側面もあるので、いつかは公の場から去らねばいけない時期が来ます。去り際を決めるのは演奏家個人の判断なので、本当のところはご本人しかわからないでしょう。自分が納得できる演奏を出来なくなる前に辞めたいという意思もあるのかもしれません。それはそれで理解できます。しかし、演奏会の最後まで、「ラスト」がどういう事かご本人の口からも説明はありませんでした。ラストリサイタルと銘打つのなら、何らかの説明はあってしかるべきだったと思います。まあ、満席になったのだから、興行的には成功だったでしょう。説明がないという事は完全引退でないという事と思えばよいのでしょう。今後も演奏会で名演を聴かせてくれる事を期待します。

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