「グーグル本社で日本酒の試飲会をしたいそうなんですが、できますか?」


日系問屋サンフランシスコ支店の営業、金太郎さんから電話が入った。


グーグル本社には、社員が無料で食事できるレストランが10軒以上ある。いずれも有名レストランからスカウトしてきたシェフが働いている。Make from scratch (1から作る方針)で、パスタも粉から作るという。


金太郎さんが担当していたレストランのシェフがグーグルにスカウトされたため、金太郎さんが担当になった。毎月数万ドルの売り上げがあると言う。


「グーグルでは、金曜日はワインが無料で飲めるんですよ。毎週パレットで注文してるみたいですから、日本酒も加えてもらえるといいですね」


社長のジェイに相談すると、「グーグルのプレゼンだったらネイティブのほうがいいな。ティムと一緒に行ったらいいよ」


日系3世のティムは、日本人街のバーで毎晩飲んでいるところを、ジェイが「ヒマなら、酒の営業でもしてみるか」と声をかけ、3ヶ月前に入社したばかりだ。


当日、サンノゼ空港からレンタカーでグーグル本社に着いた。写真で見たことがある本社のサインに胸が高なる。


受付からの連絡で、30代の日本人シェフが現れた。

「すいません。社員向けのテイスティングの予定だったんですが、都合がつかず、今日はグーグル本社のシェフ向けに試飲会をしてもらいます」

その方が、なおさら良さそうだ。


キャンパスの中を歩きながら、シェフが説明してくれる。「社員向けに車のオイル交換、ヘアカットも無料で提供しています。イタリアレストラン、寿司、アメリカンレストランなどの他に24時間オープンの軽食コーナーやスナックスタンドもあります」


レストランの隣には、パーソナルインストラクター付きのスポーツジムやプールも完備されていた。仕事場から離れる時間を極限までカットする考えらしい。


会議室に着くと、白いユニフォームを着たシェフたち20人がテーブルにつき、試飲会を待っていた。


皆の前に立つと、ティムが小声で

「トヨジーさん、日本刀は吟醸でしたっけ?」

「ザッツライト(その通り)」と答えたが、内心「今それを聞くか?」と、不安になった。


しかし、その後はティムの一人舞台だった。

普段は静かなのに、次々にジョークを飛ばして、シェフたちを笑わせ、自分のペースに乗せていった。そのうち、アルコールの力も手伝って、皆いい雰囲気になってきた。


今のところ、試飲会で使った酒以来、次の注文があったとは聞いていない。


次はグーグルのプライベートラベル提案だろうか。たとえば「求来(ぐーぐる)」とか。


Photo courtesy of Tech Monitor