突然、台湾出張の話が飛び出した。


PIS社長ジェイの知人の紹介で、台北のコンビニチェーンの本部バイヤーと商談できることになったと言う。


「台湾でもトップクラスの缶詰会社オーナーの紹介なんだ。台湾のコンビニ全部に俺たちの酒が入ったら、すごいことになるぞ」と、もう商談が成立したような勢いだ。


よく聞いてみると、ジェイの先輩の麻雀仲間の息子が婚約した相手の女性が、缶詰会社オーナーの娘さんらしい。

「大したコネクションではない感じですね」

「そんなことないよ。台湾の人は親戚の友達も大事にするらしいよ。そうだ、お土産にカリフォルニアワインの赤と白1ケースずつ用意しておいて」


麻雀仲間の息子も、現地で合流してくれることになった。


約束の日、ジェイと僕は台北空港に到着した。税関でカリフォルニアワインの手続きを済ませ、空港ビルを出る。


まもなく、ロータリーに茶色いロールスロイスが入ってきた。運転席から角刈りで目つきの鋭い男が現れ、「ミスター・ジェイ?」と、僕らに声をかけた。


「トヨジー。言い忘れたけど、缶詰会社オーナーのお兄さんは台湾ヤクザの親分らしいよ」


ジェイと僕を乗せたロールスロイスは、空港から台北市内に続く高速道路をロケットのように走った。車線の真ん中を暴走し、周りの車を蹴散らしていく。


オフィスに着くと、缶詰会社オーナーが笑顔で迎えてくれた。人の良さそうな紳士なので安心した。麻雀仲間の息子、タカシも同席し、和やかなミーティングになった。


ミーティング後、早速コンビニ本社に商談に向かう。車の窓から見ると、台北の街は東京に負けない位コンビニが多い。


ニカニカマートの本部では、ヘッドバイヤーとバイヤーの2人が面会してくれた。2人とも30歳前後。英語も完璧だ。


ジェイが名刺を渡すと、住所を見たヘッドバイヤーが「御社のオフィスはフリーウェイの10番で降りるのですか?」


びっくりしたジェイが「詳しいですね」と言うと、

「僕ら2人ともロサンゼルスに留学していました。懐かしいですね」

どおりで英語が上手なわけだ。


商談のやりとりも率直だった。

「店の棚を見ていただければ一目瞭然ですが、御社のプレミアム酒はまだコンビニで売るのは時期尚早です」


次に行ったコンビニも同じ対応だった。


夕方、缶詰会社オーナーの招待で、中華レストランで会食があった。オーナーのお兄さんも来ている。ちょっとポール牧に似ているが、親分らしい凄みがある。


料理もすごいが、飲む量がすごい。

ウイスキーをヤカンに移して皆のグラスに注ぐので、あっという間に1ケースを飲み干してしまった。缶詰会社オーナーがさらに1ケース、ウイスキーをオーダーする。


会場を移して、2次会はカラオケパーティーになった。ボール牧に似た親分が、サックスを吹いて伴奏してくれる。親分は英語を話さないので、サックスとカラオケと身振り手振りが、コミュニケーションの全てだ。


それでも、なんとなく意思は通じる。

親分は、「日本語のわかるホステスを呼ぶからホテルに連れて帰れ」と言っているようだ。一方、ジェイは「お気持ちはありがたいが、今日は疲れているので遠慮します」と身振り手振りで伝え、無事にパーティーを終えた。


タカシが予約してくれたホテルに着くと、何と回転ベッドに紫色の内装のラブホテルだった。「すいません。ビジネスホテルと思ってネットで予約したんですが…」


嵐のような台湾の1日だった。


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