ロサンゼルス・リトル東京の焼き鳥店「コケチキン」。


夕方の開店直後というのに、外にはすでに行列ができている。入り口を入ると、右側の壁には「花の舞」一升瓶がずらりと並んでいる。


奥の座敷には、PIS社長のジェイと、営業の3人、経理のミカの姿があった。


「ジェイさん、こんばんは。お飲み物は?」

「花の舞の一升瓶とグラス5つ。お水ももらえる?」


ジェイの焼き鳥皿には「ジェイ様」と刻印が入っている。


乾杯後、「花の舞、焼き鳥に合うんだよな」とジェイが皆を見回した。「なんでもっと売れないのかな?」


「ラベルに高級感が無いし、鬼がお祓い棒を振っている絵がインパクト弱い」とナカヂーが冒頭から手厳しい。


「すいません。最初は鬼がナタを振り回すイラストだったんですが、酒乱をイメージさせると言われて、ラベル登録が下りなかったんです」とヒデが申し訳なさそうにうつむく。


「ヒデのせいじゃないよ。大体お役所の人は頭が固いんだよ」とジェイが鴨ロースを突きながら苦笑する。


「金ピカのラベルに、金箔入り酒にしたらどうでしょう」と僕が提案すると、酔うと人に噛み付く癖のあるミカが「かえって品がない感じ。それって誰をターゲットにしてるの?」


「ごめんよ」と、角刈り頭に鉢巻き姿の店主が障子を開けて入ってきた。「ジェイちゃん、トマトサラダ。店から」


「ちょうど良かった。タマさんはどう思う?」

店主もディスカッションに加わった。


「そうだな、まず名前だね。アメリカ人が覚えられるシンプルな名前。次にサーバーが一言で伝えられる酒質。後は欲を言えばストーリーだね」


半年後、花の舞から新商品がリリースされた。「日本刀」と書いて英語名は「Katana」。キレのいい超辛口タイプだ。


ちなみにキャッチコピーは「チキンに合う酒」だった。


Photo courtesy of Gemini