アメリカ永住権の面接について、申請準備をしてくれたトーマス弁護士からは「Everything is good. No worries (すべて良好。心配無用)」と言われていたので、ショックは大きかった。
ともかく、審査官から言われたアメリカ滞在中の生活費の「証拠」を提出しなければいけない。
ロサンゼルスのアパートの鍵を預けてきた友人に電話をして、母から届いた手紙を全て日本に送ってもらった。その中から「現金を同封しました」と言う手紙を集めて、大使館に行った。
しかし、担当の女性審査官は、「個人のプライバシーに関わる手紙は閲覧できない」と受け取りを拒否した。その上で、
「渡米の際に持ってきたトラベラーズチェックのコピーを持ってきなさい」と事務的な口調で伝えた。
トラベラーズチェックを使った相手は、ロサンゼルス到着から1週間滞在したリトル東京のホテル。それと、最初の1年間暮らしたコリアタウンのアパートだ。
国際電話をして確認したが、ホテルもアパートも「6年前のコピーは保管していない」と言う返事だった。
万事休すかと思ったが、仏教グループの先輩が相談に乗ってくれた。「アメリカに残る使命があれば、絶対に勝てるよ。生命の底から祈ってみなさい」
先輩のパワーに“感電”し「この人に会えたということは、永住権も取れる」と根拠のない確信が湧いてきた。
妻の横浜の実家に滞在して1ヶ月以上経っていた。居候のようだ。もともと、娘のアメリカ行きを寂しく思っていた義父は「トヨジー君、日産の横浜工場で従業員募集しているよ」と冗談とも本気ともつかぬ提案をしてくる。
「もしかしたらトラベラーズチェックを購入した銀行にコピーが残っているのではないか」
そう思って、神田駅に近い銀行の支店に行ってみると、吸収合併されて違う銀行になっていた。
とりあえず、支店長と若い職員に事情を話すと、合併された銀行支店の書類も保管しているので調べてみましょうとの返事だった。
4日後、銀行から電話が入った。
「領収書のコピーが見つかりました」
毎日営業時間が終わった後、若い職員が倉庫の箱をひっくり返して調べてくれたそうだ。
翌日、菓子箱を持って銀行に行くと、支店長と若い職員がニコニコして迎えてくれた。僕はコピーをもらうと、そのまま米国大使館に向かった。
女性審査官は、僕が渡したコピーを見ると、無表情のまま他の職員に指示を出した。
5分後、名前を呼ばれ窓口に行くと、日本人スタッフから「よかったですね。永住権が認められました」
気がつくと8月29日。僕がアメリカに渡った時から、ちょうど6年目の渡米記念日だった。
1週間後、妻と僕はロサンゼルス空港に到着した。イミグレーションのカウンターで若いアメリカ人職員に、米国大使館から受け取った大きな封筒を渡す。
職員は封筒を開け、中の書類を確かめると、にっこり笑って言った。
「Welcome to America! (アメリカへようこそ!)」
Photo courtesy of Gruen Associates