アメリカにやって来て4か月後、ロサンゼルスの日本語新聞「加州毎日」で働くことになった。


加州とは「カリフォルニア州」のこと。日系社会で約100年続く新聞だ。すり減った和文タイプで打った紙面が時代を感じさせる。


紙面は日本語ページと英文ページで構成されていて、主に通信社の配信記事を使い、日系コミュニティーのニュースを記者が取材していた。


古いタイプライターが並んだオフィスの奥には編集室と台所があり、一番奥に英文編集室があった。


僕が同紙の存在を知ったのは、大学1年の時、朝日新聞の「会社人間のカルテ」というコラムで、引退した教師がロスで新聞記者になったという記事を読み、興味を抱いた。


半年間有効の観光ビザが切れる前に就労証明書を申請したいと思い、募集してはいなかったが電話してみた。


70代の女性マネジャーは「やってみますか。いつからでもいいわよ」というので12月半ばから働き始めた。


最初は紙面割り付けのアシスタントとして採用され、しばらくしてローカル記事やコラムも書くようになった。


会社はリトル東京の東端にあった。あまり治安がよくない地域だ。


ある日、通りに面する窓ガラスが割られた。誰かが石を投げたらしい。


次の瞬間、英文編集室から巨体のジョージ記者が、ピストルを持って飛び出し、空に向かって「パン」と発砲し、野太い声で叫んだ。「If you do it again, I’ll shoot you! (今度やったら本当に撃つぞ)」。


人生で初めて、本当の銃声を聞いた。


それにしても、デスクの引き出しにピストルが入っているとは…。


また、ある時は、マネジャーから「イミグレーションコート(移民裁判所)で、日本人の裁判があるそうだから取材してきて」と頼まれた。


自分のビザも更新中なので「大丈夫かな」と思いながら裁判所に着くと、日本人の中年男性が手錠と腰に鎖を巻かれて出廷してきた。アメリカ人の弁護士2人に付き添われている。


検察によると、被告はブラジルやアメリカの偽造パスポートと偽造の出生証明書を持っており、2億円以上を横領して日本から逃亡してきた疑いがあると言う。


「帰国したら命がない」と懇願する被告に、女性判事は強制送還を言い渡した。


傍聴者にいた被告の妻をよく見ると、僕のアパートの近所にオープンしたばかりの居酒屋の若い女将だった。


また、ある時、マネジャーが「今日は池田大作さんが来るわよ」と言う。僕の大学の創立者でもある。緊張して待っていたら、来たのは池田大介さんという人だった。


この新聞社は当時経営が厳しく、給与がたびたび遅配した。新聞社の薄給では暮らしていけないので、週に2日すし屋で夜のウエイターとして働いた。


同社がスポンサーになってアメリカ永住権を申請し、取得した翌年、100年続いた新聞が休刊(事実上の廃刊)した。


僕は、すし屋の元同僚の紹介で他の新聞社に転職した。加州毎日では4年半お世話になった。


また、後に勤めることになる日本酒輸入会社の社長は、このすし屋の常連客だった。


振り返ってみると、いろいろな伏線が交錯している。


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