米軍横田基地は、東京都福生市にある。
僕は当時八王子に住んでいたので、中央線で立川まで出て、青梅線に乗り換えて福生駅に行った。
横田基地には当時2万人のアメリカ人が住んでいて、「ミニアメリカ」という感じだった。駅前のタクシーゾーンには、英語で「Taxi Only」の表示がある。
マクドナルドの注文カウンターでは、アメリカ人の女子高生たちが働いている。笑顔が可愛い女の子の列に並んでビッグマックを注文し、アメリカに来たような気持ちになった。(その後、アメリカでMacに入ると、特に笑顔ではなかった)
シャロンさん一家は、3階建てのアパートに住んでいた。広々としたキッチンとダイニングがあり、ダイニングのテーブルで「授業」をする。
まずは、発音の矯正。
舌先を上の歯に付けて出す「Th」、前歯で下唇を噛んで出す「F」と「V」、舌先を前歯の裏につける「L」と離す「R」。母音の発音も、あまり意識していなかった二重母音の「ei 」(wait, eight など)に注意するようになった。
しかし、シャロンさんが発音するmirror(鏡)、 shell(貝殻)、rule(ルール)などは、発音が良すぎて、僕らが発音するミラー、シェル、ルールとは全く違うものだった。
シャロンさんの口癖は、「Makes sense? (分かる?)」。それから「I was upset (驚きました)」。はじめての日本生活で、いろいろ驚くことがあったのだろう。シャロンさんから質問が出ることもあった。
すしネタの話題になり、イカを説明しようと和英辞典を見ると(まだネットもスマホもない時代)、cuttlefish と書いてある。いやsquid ではないか、という声も出る。
辞書には、絵も写真も付いていないので、夫のジェームズさんがsquid の絵を描いてくれることになった。が、細長い体に、足がちょんちょんとついたゴキブリのような絵で、結局何かわからない。シャロンさんは、本気で言っているのか、冗談なのか「Look. James is an artist! (ジェームズはアーティストね)」と喜んでいる。
基地内をめぐる“課外実習”もあった。
将校だけが入れるオフィサーズクラブ。アメリカ人が好きなメキシコ料理のレストラン(ビーンズが苦手だった)。アイスクリームのBaskin & Robins(3段重ねのアイスを食べているおじいさんがいた)。映画館にも行った(基地内では上映前に全員起立して、米国歌を聴く)。
今思うとシャロンさんは、僕らがアメリカに行っても、恥ずかしくないように、常識とマナーを教えようとしていたのだと思う。
「ドアを開ける時は、後から来る人のために開けて待つこと」
「困っている人がいたらMay I help you? (お困りですか)と声を掛けてあげて」
「一度かじったチップスはディップに付けない」
「女性にタッチしない」(写真を撮る時に僕が肩を組もうとした)。
シャロンさんが、日本に来て感激したのは「パンが柔らかくて美味しいこと」。驚いたことは、日本人が皆、英語の筆記体を美しく書くこと。
ある日、英会話の練習中、僕が「As a matter of fact (実は…)」と話し出すと、シャロンさんが何がおかしいのかヒクヒク震えている。と思ったら、こらえきれずに吹き出した。
「I’m sorry, I just can’t hold it (ごめんなさい。我慢できなくって)」
一体、どこがそんなにおかしかったのだろう。
Thank you Sharon, because of your help I am enjoying my life in the United States now.
Photo courtesy of Stars and Stripes