何かに1万時間打ち込めば「達人」になれると言われる。
俗に「1万時間達人説」。
心理学者エリクソンの研究をもとに広まった考え方だが、実際にはそれほどシンプルではない。
特定の分野に習熟するためには、①主体的な学習、②良い指導者からのフィードバック、③適性など、さまざまな要素が関わる。当然、必要な時間にも個人差がある。
逆に言えば、適性とフィードバックに恵まれれば、達人になるのに1万時間も必要ないかもしれない。
それにしても、1万時間とは途方もない数字だ。1日1時間続けても約10年かかる。それだけの時間を注ぎ込みたくなる分野というのは、よほど魅力があるのだろう。
振り返ってみると、僕が1万時間以上費やしたこととしては、①文章を書くこと、②英語、③日本酒コンサルティング、④営業などが思い浮かぶ。
しかし、適性やフィードバックという観点から見ると、どれも「達人」と呼べるレベルには程遠い。
ところで、すべての人が「達人」を目指しているかと言えば、そんなことはない。
あえて単純化して言えば、「達人になる必要はない。好きなことを特技や趣味にすればいい」のではないか。
もし時間で区切るなら、特技なら100時間、趣味なら10時間でも十分だろう。
最近の僕は、達人を目指すよりも、興味を持ったことを試してみる生き方に惹かれている。
読書、語学、ブログ、散歩、シニアランチでの会話、日本酒の仕事――。
どれも達人になるほど極めてはいないが、それぞれが新しい景色を見せてくれる。
人生の豊かさは、一つの山の頂上に立つことだけでなく、里山や丘にも登り、それぞれの景色を楽しむことにあるのかもしれない。