ある朝、風原の果てに、きらびやかな塔が建っていた。
塔のてっぺんには、**「称号の鐘」**と呼ばれる金の鐘があり、鳴らせば誰もが称賛され、万人から「偉大なる者」と呼ばれるのだという。


旅の者たちは行列をなし、塔へ登り、鐘を鳴らした。


すると天より紙片が舞い降りる。
そこにはそれぞれの称号が刻まれていた。

「世界一の努力家」
「傷ついた者たちの救済者」
「比類なき叡智の導き手」
……皆、紙片を胸に貼りつけ、涙し、踊りながら塔を降りていった。


サクヤもまた、静かに塔に登った。
だが、鐘を鳴らす寸前、彼はふと立ち止まった。
そして鐘に手をかけたまま、目を閉じた。


風が吹いた。

その風の中に、彼はかすかな声を聞いた。

「名を得て、そなたは誰になる?」

彼は手を下ろし、鐘を鳴らさずに塔を降りた。
称号の紙片を持たぬ彼を、人々は無視した。
ある者は言った。「あれは、自分の価値を証明できぬ者だ」と。


だが、サクヤの足取りは軽かった。
心のどこかで、こう思っていた。

「この塔は、きっと他人の目にしか響かぬ鐘なのだ。
私の鐘は、まだ沈黙のうちにある。」

そして彼は、また歩き出した。
自分だけにしか聞こえぬ、見えぬ鐘の音を探しながら。

(つづく)


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