エリック・カンデルの「There is life after the Nobel Prize(ノーベル賞受賞後も人生はある)」を読んでいる。
アメフラシを使った短期記憶と長期記憶の研究で、2000年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。受賞する数年前に、妻(コロンビア大学の同僚)に「もうすぐノーベル賞をもらえそうだよ」と話したところ、妻から意外にも「そんなに早く受賞しない方がいいわ」と返事があった。それが、本のタイトルになった。
ノーベル賞など著名な賞を受賞した学者がその後、知的生産レベルが下がる実例を多く研究していた妻は、「受賞後はイベントに追われ、知的貢献ができなくなってしまう」と説明し、「あなたはもう少し研究を続けたほうがいいわ」と励ましたという。
この本は、結局ノーベル賞を受賞してしまったカンデルの、ノーベル賞後の「知的貢献の証明」というわけだ。
その中で、パーキンソン病についての記述もあった。
脳の研究が進む中で、今まで別々と思われていた神経疾患と精神疾患が重なり合うことがわかってきた。アルツハイマー病は記憶の障害、ハンティントン病とパーキンソン病は行動に障害が出るが、いずれも脳内のprotein misfolding(誤って畳まれたタンパク質)が原因だとわかってきた。
タンパク質の種類と発生する脳の部位の違いで、一方は記憶に、もう一方は行動に障害が出る。カンデルは「同じメカニズムが当てはまる病気はたくさんあるだろう」と推測する。
たとえて言えば、アルツハイマー病の研究者とパーキンソン病の研究者が、全く違ったルートを辿りながら、ゴール直前でいきなり出くわした、という感じか。脳の研究が進む中で、だんだん病気のメカニズムも解明されてくる。