(再録)中島岳志「岩波茂雄(リベラル・ナショナリストの肖像)」(岩波書店・1900円+税) | 野球少年のひとりごと

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(再録・2022.1.18既出)

今日も寒い(午前中が4度で、午後からも5度とそう変わらない)。一日書斎で、室内暖房器を付け加えて遠赤外線カーボンヒーターも付けて凌いでいる。年明けから一度も出掛けていないし、コロナ禍の影響もあって来客も途絶えている。まあ、読書に集中するには最適の環境である。年末から読み始めた、「安岡章太郎集(全10巻)」(岩波書店)も今朝から第8巻に掛っている。第7巻に収録の、安岡の代表作と目される、「幕が下りてから」「月は東に」もそれなりに面白かった。人物造形などは流石である。ただ、わたしには初期の瑞々しい短篇である「ガラスの靴」とか「悪い仲間」「陰気な愉しみ」「遁走」「舌出し天使」「質屋の女房」のほうが好みである。尤も、今朝から読み始めた第8巻に収録の「流離譚 ㊤」は、土佐藩における祖先の事跡を調査したもの(ルーツを探る)で、9巻の㊦と合わせて大部のものであるが面白そうである。長編の醍醐味を楽しむことが出来そうである。

 

相変わらず本箱にある未読のものから、ナショナリズムに関する中島岳志の著作で、「岩波茂雄(リベラル・ナショナリストの肖像)」(岩波書店・1900円+税)と「朝日平吾の鬱屈」(筑摩書房・1400円+税)の2冊のことを。「岩波茂雄(リベラル・ナショナリストの肖像)」は、岩波書店創業者の岩波茂雄に取材したもので、岩波書店創業100周年の記念出版の1冊でもある。岩波茂雄に関しては、安部能成「岩波茂雄傳」(岩波書店)や臼井吉見「安曇野」(筑摩書房)にも登場していて馴染みではあるが、中島岳志が副題の「リベラル・ナショナリストの肖像」としてどのように描いているか興味がある。もう1冊の、「朝日平吾の鬱屈」は、明治の実業家・安田善次郎を暗殺した犯人として知られる、朝日平吾(政治活動家、右翼、テロリスト)を取り上げたものであるが、中島岳志がどのように彼を捉えているか楽しみである。

 

中島岳志「岩波茂雄(リベラル・ナショナリストの肖像)」 「吉田松陰全集」を出す心持ちとマルクス資本論を出すことに於いて…一貫せる操守のもとに出ずる事に御座候―岩波茂雄
 煩悶愛国青年は、いかにして近代日本の出版文化を築いたのか。鮮やかに蘇る岩波茂雄とその時代。
 自筆原稿・百名を超える関係者による追憶文・往復書簡など、膨大な伝記関係史料を使って、岩波書店創業者・岩波茂雄のリベラル・ナショナリストとしての生涯と、近代日本の出版文化の基礎を築いた出版人としての事績をたどる。吉田松陰を敬愛し河上肇訳『資本論』を公刊した岩波には、煩悶と愛国が同居していた。ナショナリストにしてリベラリスト、リベラリストにしてアジア主義者というある明治人による広角度の出版活動を、分裂ではなく統合の位相で捉える、書下ろし評伝。岩波とその時代の風貌が鮮やかに甦る。
 岩波はナショナリストであることとリベラリストであることに、常に意識的だった。彼にとって両者は一体の存在であり、相互補完的な関係にあった。/このような論理は、いかなる過程で形成され、岩波書店の出版活動に反映されたのか。そのプロセスを追うことは、一出版社の事績を振り返る作業に止まらず、近代日本の精神史の重要な一断面を論じることになる。(「はじめに」より)

 

   

安部能成「岩波茂雄傳」 信州への郷土愛を持ちつつ、東京で出版人として生きた岩波茂雄。溢れる活力と情熱で時代と向き合い、生涯青年のように道を求め続け、出版事業に邁進した。「一番無遠慮な友人」安倍能成が、温かい理解と忌憚ない批判の眼差しで描いた本書は、出版事業についてはもちろん、これまで知られることの少なかった私生活についても余すところなく言及し、出版事業者の気概に触れることができる。

 

   

 

中島岳志「朝日平吾の鬱屈」 暑い夏の最中、六畳間に敷いた布団にこもり、一人テロを決意した心境はどんなものだったのだろうか。私の脳裏には、パソコンのキーボードに苛立ちをたたきつけ、ネット上で他者をパッシングする同世代の青年の姿ばかりが、いつもいつも思い浮かんだ。朝日平吾の風景が、現在の風景と重なり合った。(本書より)

 

   

 

写真は、東山丘陵で撮影する。