(再録)ロジェ・グルニエ「写真の秘密」(みすず書房・2600円+税) | 野球少年のひとりごと

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(再録・2021.12.27既出)

朝からとてもゆっくりしている。予定のないのはこのところの常態で、昨日のように突然の来客があると嬉しいものである。昨日、Tさんからたくさん頂いた大根は小分けして、隣に住む次男の所とご近所にお裾分けした。女房が持参するわけだが、西洋骨董商のWさんからは「神宗」の塩昆布を、お隣のOさんからは奥さんの実家でつきたての餅(海老や生姜の入った)を数本貰って来た。Oさんには改めてワイン(白の辛口)を届けた。こういう風にしてご近所と「物」のやり取りをすることは、旧居時代の母を見習って女房がしてくれていることであるが、今どき割と大事なことであると思う。

 

本の話である。今日もアマゾンから荷物が届いて開封すると、ロジェ・グルニエ「写真の秘密」(みすず書房・2600円+税)、「フラゴナールの婚約者」(みすず書房・3800円+税)の2冊である。先日、同じくロジェ・グルニエの「パリのわが町」(みすず書房・3700円+税)を購入して、それを読む前にであるがもう少し彼のものを揃えておこうと考えての今日の2冊である。年明けにも掛ろうと考えている。

 

「写真の秘密」 「古い写真帳を開くと、ほとんどが死んでしまった昔の仲間たちが、わたしを見つめている。それは少しばかり悲しい喜びなのではあるが、別の日には、虚無との対面ともなる。若くて、魅力的で、本当に美しかった男や女たち。彼らは絶対に老いたりすることなどありそうもなかった。だが、その一瞬のちに、彼らは墓のなかにいるんだ、遺灰になってしまったのだと思わせられるのは、まったく耐えがたいことだ。わたしはアルバムを閉じるしかない。/こうした昔の写真を前にすると、わたしは、現在とは、ひとつの異国なのではないかという印象を禁じえない。わたしはその異国に追放されて暮らしているのである。」(本書「追放されて」より)

 名作『ユリシーズの涙』で愛犬と世界の犬たちの逸話を楽しく語ってくれた90歳のフランス作家が贈る、歴代の愛機と写真家たちの思い出と、数多の写真にまつわるアネクドート集。グルニエのファンはもちろん、カメラと写真、人生を愛するすべての人々のための、言葉によるアルバム。

 

   

 

「フラゴナールの婚約者」 現代フランス屈指の小説家による短篇傑作選。チェーホフ、フィッツジェラルドの世界に通う、苦くて可笑しい20の物語。この一冊を今世紀を生きた男と女がいる。

 

   

 

「パリはわが町」 人生の住所録 短篇の名手が、所番地を手がかりに数多の出来事と出会いを想起する断章=自伝。20世紀の都市パリを生きた作家たちを偲ぶ「愛情地理学」にして人生のアドレス帳。

 「はたして自分が田舎者なのかパリっ子なのか、わたしにはわからない。わたしはたまたまノルマンディに生まれた。そして、わたしの作品の大部分は、子供時代や思春期を過したポーの町とベアルヌ地方から着想を得ている。けれども、わたしの町ということになれば、それはパリである。本当のパリっ子とは、別の土地で生まれ、パリで生きるのが征服することであるような人間をいうような気がするのだ。それには、セーヌ河にかかる橋を渡って、目をみはるだけで十分だ。夢ではなくて、わたしはパリにいるではないか!」(本書より)

 1943年以来ずっとパリに暮らす、97歳の作家が、19世紀パリの印刷工だった祖父の住所を皮切りに、数々の思い出と出会いにあふれる町を言葉で散歩する。占領から解放される現場に立ち会い、カミュのもとで編集発行された<コンパ>紙のジャーナリスト、ガリマール社の編集者として、多くの作家を知ったグルニエの、親切な道案内で路地裏を歩いてゆく読者に、パリは新たな相貌をみせてくれるにちがいない。

 本書には、ジッド、サルトル、ジュネ、バタイユ、フォークナー、ヘミングウェイ、カルペンティエルなどが姿をみせ、今は亡き親しい友人たち(ブラッサイ、パスカル・ピア、クロード・ロワ、ロマン・ギャリ)も生きているようだ。都市を舞台とした愛情地理学にして、人生のアドレス帳。