谷沢永一×渡部昇一『「聖書」で人生修養』(致知出版社・1400円+税) | 野球少年のひとりごと

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今日で1月も終るが幸いたくさんの本を読むことができ、なかで面白いものとも巡り合った。私的読書評価で「☆」のものを以下にあげてみる。鈴木道彦「フランス文学者の誕生(マラルメへの旅)」(筑摩書房・3300円+税)、小沢慧一「南海トラフ地震の真実」(東京新聞・1500円+税)、前田速夫「老年の読書」(新潮選書・1500円+税)、広野真嗣「奔流(コロナ「専門家」はなぜ消されたのか)」(講談社・1800円+税)、田中圭一「百姓の江戸時代」(ちくま学芸文庫・1000円+税)、谷沢永一×渡部昇一『「聖書」で人生修養』(致知出版社・1400円+税)の6冊である。新刊は、小沢慧一「南海トラフ地震の真実」、広野真嗣「奔流(コロナ「専門家」はなぜ消されたのか)」の2冊だけで、いずれもノンフィクションである。前田速夫「老年の読書」は友人の紹介で、田中圭一「百姓の江戸時代」は、佐藤忠男「独学でよかった(読書と私の人生)」(中日映画社・1600円+税)で取り上げられていて読む気になったもの。(私的読書評価 「☆☆」=大変面白かった、「☆」=は面白かった)

 

その中の、谷沢永一×渡部昇一『「聖書」で人生修養』(致知出版社・1400円+税)は、キリスト教に関してまったく門外漢と話す谷沢永一に対して、カトリック信者でもある渡部昇一が「聖書」についてレクチャーする形で対談は進行するが、キリスト教とは関係なく語られた「陰徳」について本文中より引用する。

 

谷沢 「陰徳」です。よく運の強い人、運の悪い人と言いますが、絶対に運というのはあります。けれどもそれは非常に例外的にあるわけで、たいていの運の悪い人というのは陰徳を積んでいない人です。単純明快と思います。若いときから何か人のためになることをやってきた人間は、どこか運がいいですよ。私はこの六十何年見てきて、人間には、陰徳を積む人とそれを絶対しない人の二種類があることがよくわかりました。そして、陰徳を積まない人は絶対に運が悪い。ここ一番というときに人が救ってくれない。だから、ここを一言で言うと、「陰徳の勧め」です。/私の考えはやや功利主義的になりますが、しかし、少なくとも陰徳を積まざるを得ないような精神構造を持っている人が、結局は人から好かれ、人から引き上げられる。そして、運を与えられるということになると思います。

 

渡部 幸田露伴はキリスト教徒ではありませんからキリストほど明快には言っていないのですが、『努力論』の中で、「瞑々の中に運行する運に返すような気持ちでやらなければいかん」というような趣旨のことを書いています。これは、「こうやればこういう報酬がくるだろうというのではなくて、運はめぐりいくものだから、瞑々暗々裏に動くものに任せるというような気持ちでいいことをやらなければならない」ということです。ここは露伴とも通じますね。

 

谷沢 陰徳を積む人というのは、「いいことをやりたい人」ということです。陰徳というのは計算づくじゃない。計算してはいけない。そうではなくて、どうしても誰かに対して手を差し伸べなければ自分の気持ちがおさまらないと思うような、そういう性格の人に運がめぐってくるということです。/天運という言葉があります。あれは言葉のあやで、私は人運だと思っています。人間社会がその人をなんとか処遇してくれるわけですね。だから、天運ではなしに人運だと思うのです。そして人運を受ける人は、必ずどこかにそういう優しさを持っている人です。あるいは、他人の窮境を見過ごすことのできない人。さらに言えば、陰徳というのは、それだけの能力を持っていなければ積めないわけです。

 

谷沢永一×渡部昇一『「聖書」で人生修養』 人生は聖書を読むに如かず 永遠のロングセラーを信仰の書ではなく、「人間学」の書として読む。

 聖書を生きるヒントとして

 聖書については無数の解釈、無数の教派があります。しかし、われわれは一つの宗教的読み方ではなくて、純粋に日本的な立場で、新しい心の学「新心学」の立場から、あるいは「人間通」の立場から読んだらどうだろうかと考えました。(渡部昇一)

 一つ一つの古典であると見る。それは過去において非常に多くの人の精神をひきつけた古典である。そうすると、どういうところが人々の心に強く染み込んだのであろうかというところをお互いに選んで、それを研究材料とする。これがこの本の主旨です。(谷沢永一)

 

   

 

「イタリア」で描いた水彩によるスケッチから

「洋画家 仲村一男」のホームページ

 http://www.nakamura-kazuo.jp/