(再録)レベッカ・ブラウン「若かった日々」(マガジンハウス・1600円+税) | 野球少年のひとりごと

野球少年のひとりごと

本のことを中心に、関西学生野球や高校野球のことをつぶやいています。
また、父・洋画家「仲村一男」の作品を毎日紹介しています。

(再録・2020.1.28既出)

午前中晴れていた天気も、午後からは一雨が来そうな雲行きである。昼食後に玄関の郵便受けを見に出たのとそのときに裏庭にまわったくらいで、相変わらず外出することもなく書斎で暮らしている。昨日で読了の、レベッカ・ブラウン「若かった日々」(マガジン・ハウス・1600円+税)であるが、自伝的小説といってよいと思うがよかった。訳者である柴田元幸の解説から少し引用する。

 そしてもうひとつ、この連作短編集の大きなテーマになっているのが、自分がレズビアンであることへのめざめである。作品集のほぼ中央に置かれた二作「ナンシー・ブース、あなたがどこにいるにせよ」「A Vision」は、キャンプで出会ったカウンセラー、小学校の先生への切ない憧れが描かれている。ふつう、切ない初恋といったたぐいのテーマは僕が個人的にもっとも苦手とするところなのだが、この二作は本当に素晴らしい。それは何より、年上の同性に恋する物語が、自分のなかの隠れた部分を発見する物語、男の子から浴びる視線がすべてであるチアリーダーを理想とするアメリカン・ガールの世界とは違った世界があることを発見する物語と、じかにつながっている(要するに、憧れの対象はそのまま生き方の貴重なお手本でもある)からだと思う。/こうしたテーマが、いつもながらの力強い、呪文のようなリズムを持った文章で語られ、内容としては個別的・個人的であっても、それを通して、読者が自分の少女・少年時代や家族との関係をあらためて考えるように刺激してくれる本になっている。

 

確かに、レベッカ・ブラウン「若かった日々」は柴田元幸がいうように、この二作に尽きると思う。少しだけ、子供の頃や学生時代を思い出させてくれることになった。今朝から、同じレベッカ・ブラウンの「体の贈り物」(マガジン・ハウス・1600円+税)を読み始めている。柴田元幸の解説によると、「エイズ患者とその世話をするホームケア・ワーカーを語り手とし、彼女と患者たちとの交流をめぐる、生と死の、喜びと悲しみの、希望と絶望の物語」。中ほどまで読み進めたところであるが、なかなか凄まじいものだ。会社の同僚で、いちばん気心が知れ一緒にいろいろなプランを実現した男が、50歳になるかならずで病に倒れた。大変繊細で美的なセンスは抜群であり教えられるところも沢山あった。病を得たときも(肝硬変と聞いていたが)入院先が東京でもあり見舞いに行くこともなく時間が過ぎた。しばらくすると意識が混濁しはじめたことを伝え聞いた、そして突然亡くなった。葬式にも参列していないが、その喪主に彼の姉さんと全く知らない年配の男が名前を連ねた。後で聞くと、その男と長く同居していたようだ。彼とは大阪へ出張してくるたびに、そしてわたしが東京へ出張するたびによく飲んだ。そういう素振りはまったくなかったし、その性癖にもまったく気づかなかったが、死因は「エイズ」であったらしい。そのようなことをも思い出させる「体の贈り物」である。

 

「若かった日々」 レベッカ・ブラウンは、遠い日々にある流れ星のような幸福と、さざ波のように寄せる哀しみを、両手ですくい上げる。いとおしむように、許すように、そっと。(小川洋子)

 子供のころの水の記憶、同性の先輩への憧憬、母の死、父との葛藤……。かつて経験した強烈な瞬間を、烈しい幻視力によって生き直したレベッカ・ブラウンの自伝的作品集

 

「体の贈り物」 『この本を読者に届けたい』―翻訳者もイラストレーターも装丁者も、そして編集者も校正者も、関わったみんながそう熱望した! 生と死、喜びと悲しみ、そして何よりも希望を描いた心がふるえる物語

 彼の目が動いた、目は水っぽく、濁っていた。焦点を合わせようと、あまりにも頑張りすぎていた。生まれてはじめて目を開いた赤ん坊と同じに。/顔の肌がひどく薄く見えた。それから、まるでそこに光があるみたいに、輝いて見えた。何か光り輝くものの姿がそこにあった。/彼は口を開けようとしたが、開けられなかった。彼は目を閉じた。/私はベッドに身を乗り出して、両腕で彼を抱きかかえた。精一杯優しく抱きかかえた。(「姿の贈り物」より)

 

 

洋画家「仲村一男」のホームページ

http://www.nakamura-kazuo.jp/