(再録) 川上弘美「晴れたり曇ったり」(講談社・1400円+税)、安岡章太郎「文士の友情 吉行淳 | 野球少年のひとりごと

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(再録・2013.8.1既出)

今朝で読了の、本年度直木賞受賞作、桜木紫乃「ホテルローヤル」(集英社・1400円+税)予想通りのといってよいと思うが面白かった。北国のラブホテル「ホテルローヤル」に纏わる7つの短編からなるが、それぞれの結末に余韻を残す構成とディテールに至るまで神経が行き届いていて、とても上手いと思う。芥川賞や直木賞受賞作家としては、川上弘美や絲山秋子に連なる可能性を感じさせる。何冊か読んでみたいと思っている。

 

午後に、アマゾンから宅急便が届いていて、その川上弘美の新刊である「晴れたり曇ったり」(講談社・1400円+税)と安岡章太郎「文士の友情吉行淳之介の事など」(新潮社・1900円+税)が出てくる。川上弘美は男女を問わず同世代でいまいちばん油が乗り切っている作家のひとりである。才気あふれる川上ワールドといってよい独特の世界を持ち、新作が待ち遠しいほどに毎回刺激的である。といっても川上弘美の場合は、刺激という言葉が不釣合いの「ゆるり」としたくらいのものであるが。本書「晴れたり曇ったり」は、2頁くらいの超短編からなるエッセイ集であり日常のことや本のことを語っている。一気に読めそうである。

 

もう1冊の、安岡章太郎「文士の友情吉行淳之介の事など」は、先頃亡くなった安岡章太郎の、単行本に未収録のものを集成したもので、吉行淳之介や遠藤周作などのいわゆる安岡を代表に第三の新人と称される人たちとの交流や弔辞、そして巻末では小林秀雄や小川国男、吉行淳之介、遠藤周作などとの対談や座談が収められている。安岡章太郎が文章を発表しなくなって数年になるが、巻末の長女治子の「あとがきにかえて」によると、「父は八十歳を過ぎて二、三年たつ頃から次第に心身の能力を一つ一つ神様にお返ししてゆく毎日で、井上神父の好む良寛さんの『裏を見せ表を見せて散る紅葉』という句がぴったりの晩年だった」というようなことであったらしく、新作の発表は願いようもなかったわけである。安岡章太郎の作品は若いころから随分読んできたが、わたしは最初期の「質屋の女房」「ガラスの靴悪い仲間」に尽きると思うが、他にも「なまけものの思想」「良友・悪友」「放屁抄」「僕の昭和史Ⅰ」「僕の昭和史Ⅱ」「幕が下りてから」など、当然のことに見るべきものは沢山ある。本箱にも、十数冊の未読のものがあって、これらにも掛からないといけないと考えている。それにしても、わたしたちの世代が最も親しみを感じた第三の新人で存命なのは阿川弘之くらいで、しかも阿川にしても断筆を宣言してしまっている。自身も含めあっという間のこの30年ほどであった。

 

川上弘美「晴れたり曇ったり」 待望の最新エッセイ集 ゆるり、毎日。 日々の暮らしの発見、忘れられない人との出会い、大好きな本、そして、「あの日」からのこと。いろんな想いが満載!

 突然ですが、わたしは一目ぼれということを、ほとんどしたことがありませんでした。そのことは、ほかのエッセイで書いたこともありますし、つねづねいばって(?)人さまに宣言もしてきました。/…そのように言い立てるのは、「わたしは人の外見にまどわされずに内面を見ることのできる者なのである」という自負があるからにちがいありません。ま、ひらたくいえば、まわりくどく自慢しているわけです。/ところが、最近「外見にまどわされない自分」に関しての自信が、大いにぐらつきはじめたのです。-恋におちました

 

安岡章太郎「文士の友情 吉行淳之介の事など」 何度も喧嘩した。絶交したこともあった。しかし、彼等と文学上の生き別れは決してしなかった-。吉行淳之介、遠藤周作、島尾敏雄… 文豪が人生の最後に振り返った、友人たちの風貌姿勢。

 目次より

  吉行淳之介の事(100枚)

  豆と寒天の面白さ

  好天の夏日-吉行の死

    ✲

  弔辞 遠藤周作

  遠藤周作との交友半世紀

  遠藤周作宛書簡

  「繰りかえし」の闇のなかで

  声と言葉

  夕方の景色

  朽ち惜しさということ

  回想ヤールタ海岸

    ✲

 対談 人間と文学

       安岡章太郎 小林秀雄

 座談会 島尾敏雄<聖者>となるまで

       安岡章太郎 小川国男 吉行淳之介

 座談会 僕たちの信仰

       安岡章太郎 井上洋治 遠藤周作

 

 安岡は自分の文章に愛着と自信を持つてゐた。文章の組立方には、十二分の心くばりをしてゐたにちがひない。ともかく一冊手に取つて、任意の頁を開いてごらんなさい。時に飄逸軽妙、時に晦渋難解な文章、読み進むにつれて予期せぬ輝きを帯び始め、皆さんに意想外読書の楽しみをたつぷり味はせてくれるのではなからうか。

(阿川弘之氏評)

 

 

「洋画家 仲村一男」のホームページ
 
http://www.nakamura-kazuo.jp