原武史「レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史」(新潮社・2000円+税)、杉山隆男 | 野球少年のひとりごと

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今年に入ってから、昭和に因む本ばかり読んでいる。いま読んでいる、原武史「レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史」(新潮社・2000円+税)も、昭和30年代に東京の西武沿線で開発された団地と、そこに生まれてくる思想空間を論じていて面白い。1962年生れの、当代きってといってよいほどの気鋭の学者(専門は日本政治思想史)である原武史の、これまでの注目すべき仕事に「天皇」や「都市あるいは居住空間と思想の関わり」をテーマとするものがある。前者では『大正天皇』(毎日出版文化賞受賞)や『昭和天皇』(司馬遼太郎賞受賞)、『可視化された帝国』などが、後者では『「民都」大阪対「帝都」東京』(サントリー学芸賞受賞)や『滝山コミューン一九七四』(講談社ノンフィクション賞)、重松清との共著『団地の時代』などがある。他に、彼の鉄道マニアぶりが楽しい『鉄道ひとつばなし』の連作なども。本書に戻ると、昭和30年代に西武沿線に日本住宅公団によるいわゆる団地が沢山建つことになるが、そのことによりこの地区独特の<思想空間>ともいうべきものが出来てくる。共産党を中心とした革新の牙城というほどのものである。私事になるが、昭和44年に大学を出て最初に勤めた会社の社員寮が西武沿線の新所沢にあって、本書に登場する昭和30年代後半の新所沢と比べるともう少し開けていた筈だけれど、当時も駅前には西友くらいしかなくタクシー待合所も貧弱なもので、随分寂しいところに来てしまったものと嘆息したものだ。西武新宿線と国電を乗り継いで、新大久保(新宿区柏木)にあった東京支店まで通勤したことが懐かしい。先日来紹介の、津野海太郎の本などに出てくる風景とも合致するわけだが。もう一度、本書に戻ると昭和30年代に本格的に様変わりしてゆく東京の、特に西武沿線とそこに建った団地が生ぜしめた<思想空間>の話が、原武史の他の著書に通有するところがあって、同様にとても刺激的である。
 続けて読もうと本箱から取り出したのが、杉山隆男「昭和の特別な一日」(新潮社・1500円+税)で、こちらは東京オリンピックが開催された頃(昭和39年)の銀座や日本橋のことを語っている。杉山隆男では『メディアの興亡』と自衛隊員への懇切な取材で成立した『兵士に聞け』のシリーズが忘れられないが、少し毛色の違った本書はどうであろうか。読了後にあらためて
 
原武史「レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史」 西武と団地は、何を生み出したのか- 特急電車(レッドアロー)と星形住宅(スターハウス)が織り成した<思想空間>をあぶりだす力作評論。
 一九六〇年代から七〇年代にかけて、日本共産党が勢力を伸ばしてゆくのは、西武沿線をはじめとする団地においてであった。特急電車の「レッドアロー」と星形住宅の「スターハウス」に象徴される西武鉄道と日本住宅公団が、あたかも手を携え合うかのように、結果としてアメリカとは異なる思想空間を、東京の西部につくりだしていったのである-(本文より)
 
杉山隆男「昭和の特別な一日」 オリンピックがやって来た、あの頃のこと。二度と戻らない日々の忘れられない光景-。 開会式の空を飛んだもう一人のパイロットの秘話、銀座から都電が消えた日、中野にオープンした<東洋一>のブロードウェイ!…他
 「いい時代だったんですね」/思わずそんな思いが心のそこからこみ上げてきて、自然と口をついて出た。/元運転士も、眼もとを緩め、懐かしそうな眼差しをして、うなずいている。/「そう、のんびりとしてね」/端からは、寄る年波の単なる感傷に過ぎないと言われてしまいそうである。たしかにその通りかもしれない。/しかしほんとうにそうした時間が、かつて「町」だったこの東京にはゆるゆると流れていたのだ。そう考えると、なくしてしまったものの大きさと同時に、それがかけがえのないものだったことにいまさらのように気づかされ、もう二度とそうした時間の中に浸かることはできないのだと思うと胸が渇いてくる。(本文より)
 
 
作品は、「ナザレ(水彩)」
 
「洋画家 仲村一男」のホームページ
http://www.nakamura-kazuo.jp