川崎賢子「彼らの昭和 長谷川海太郎・潾二郎・濬・四郎」(白水社・2718円+税)、長谷川郁夫「美 | 野球少年のひとりごと

野球少年のひとりごと

本のことを中心に、関西学生野球や高校野球のことをつぶやいています。
また、父・洋画家「仲村一男」の作品を毎日紹介しています。

イメージ 1
 
午後から雨もあがり女房と40分ほど散歩する。東山丘陵の街路や公園に植えられた木々のうち、山茶花は満開、白梅は芽吹き始めている。70haからなるニュータウンのバス路を中心に、途中で公園に寄ったりしながらの散歩であるが、街路公園ともいつも整備されていてとても気持ちがいい。帰宅後、コーヒーを呑みながらパソコンに向っているわけだが、少し高血圧気味のこともあって先日来血圧を測っている。コーヒーを毎日欠かさず呑んでいるのも、血圧によいと聞いたことによる。昨年の11月12月の二月にわたり、風邪を繰り返しひくなど最近では珍しく体調が悪く、散歩もせずに来たが、年明けからはその散歩も再開しお陰で体調も元に復しつつある。プロ野球の、そしてわが母校野球部のキャンプインも間近に迫っている。母校野球部に関しては、昨シーズン春秋とも自力優勝の可能性を持ちながら、最終的に3位に終ってしまった。今シーズンの奮起が望まれる。
 さて、本の話である。昨日、長谷川四郎の本を紹介したが、その長谷川四郎も含む4兄弟について書かれた労作があって、まだ読んでいないことに気付く。それが、川崎賢子「彼らの昭和 長谷川海太郎・潾二郎・濬・四郎」(白水社・2718円+税)であるが、サントリー学芸賞受賞の発売当時の1994年に結構話題になったものである。長谷川兄弟の長兄は、谷譲次・林不忘・牧逸馬と三つのペンネームを持ち「丹下左膳」シリーズなどで流行作家となった長谷川海太郎。次男潾二郎は、洋画家として、また探偵小説作家として著名である。猫の眠っている油絵が有名。三男濬は、バイコフ「偉大なる王」の翻訳者として知られる。そして、四男が「シベリア物語」「鶴」の作家である四郎。このように稀有といってよい才能に恵まれた4人の兄弟について、川崎賢子は何を語っているのか大いに興味がある。サントリー学芸賞受賞作品であるが、本賞は大佛次郎賞(大佛次郎論壇賞も含め)と並び地味な仕事や問題作などをきちんと評価していて、受賞作品のいずれもに信頼性を感じる。
 次が、長谷川郁夫「美酒と革嚢 第一書房・長谷川巳之吉」(河出書房新社・5800円+税)で、こちらも二段組で400頁を越える大部のもの、内容的にも前者に匹敵するほどの問題作である。著者の、長谷川郁夫は1947年生まれながら、早稲田大学在学中に小澤書店を創業し、2000年に倒産するまでに600点を越す文芸書の編集・制作に携わった。小澤書店の本は、それぞれ念入りの装丁を施され文学愛好者にとっては貴重なものであった。小澤書店の全集もので、『小川国夫全集』や『小沼丹全集』などが思い出深い。その長谷川郁夫が、書店を閉じた後に、作家としてものしたのが本書で、戦前に一世を風靡した第一書房主の長谷川巳之吉について、渾身の評伝を成し遂げたわけだ。本書で、芸術選奨文部科学大臣賞を得ている。長谷川郁夫には『われ発見せり 書肆ユリイカ・伊達得夫』という好著もあり、作家としても充分に注目に値するひとりである。
 
川崎賢子「彼らの昭和 長谷川海太郎・潾二郎・濬・四郎」 モダニズム、満州文学、戦後文学。 昭和という時代の表現者として特異の足跡をのこした長谷川兄弟。空間の、思想の、官能の<越境>を繰り返した彼等は何を欲望したのか、私たちは何を見失ったのだろうか?二十世紀日本文芸の地層に新たな回路をきりひらく書き下ろし評論。
 
長谷川郁夫「美酒と革嚢 第一書房・長谷川巳之吉」 伝説の出版人の二十年の航跡を追い昭和文化の全体像を鮮やかに再現した評伝文学の輝かしい到達点!
 震災後の出版界に美と豪奢の時を築き、刊行書目をもって自叙伝を書くという高邁な精神を貫いた男がいた!
 堀口大學、萩原朔太郎らの絢爛たる造本の豪華本を刊行し、徹底した在野精神、反アカデミズムで「第一書房文化」と讃えられて大正・昭和の出版・文学界をリードしながら、最盛期の昭和十九年に自ら書肆を閉じた伝説の出版人の航跡と謎を追う、渾身の評伝。
 近代の出版界において、(たとえ独断ではあっても)私には、出版という行為に明確な自覚をもち、よい意思の人であった巳之吉が、巳之吉だけが、私の問いに耐えうる人物であるとの確信があり、それを片時も疑うことはなかった。いうなら、二十余年のながい付き合いに甘えて、巳之吉の胸を借りていたのだった。あきらかに、巳之吉にとって出版は、詩や小説、批評といった文学的行為と等質の制作であり、昭和十九年二月、「第一書房」という未完の作品の筆を折ったのである。その決断は、作者としての最後の良心を示したものであったとみるべきかも知れないと、いまにして思う。(「あとがき」より)
 
 
作品は、「ナザレ(ポルトガル)」
油彩 803×1000センチ(1978)
「洋画家 仲村一男」のホームページ
  http://www.nakamura-kazuo.jp