私は自分ではタフな方だと自負していたけれど
最近心が折れそうになることが続いている。
私は歯科衛生士として
むし歯も歯周病も予防できる病気だと実感している。
むし歯はいかに削らないうちに歯を守るための知識を人々に伝えていくか
理解して行動して習慣にしてもらうか。治療の繰り返しをゆっくりにするか。
歯周病は発症しないように細菌のコントロールを行い
タバコ、不正咬合など悪くする要因を作らないか。
健康な口腔は体の健康にも繋がり健康寿命を延ばすことにもなる。
患者さんを通して歯周病が改善したら必ず血糖値は下がるということも
たくさん経験してきた。
こうした生涯にわたって健康をサポートすることができる歯科医療は素晴らしい。
直接かかわることができる歯科衛生士は誇りある価値のある仕事だと思って来た。
だから一人でも多くの歯科衛生士にこの使命とやりがいを伝えたい。
離職する歯科衛生士を減らしたい。
そんな思いから私の残りの歯科衛生士人生はここにかけていこうと思った。
歯科医療の価値を共有し、健康を守れる歯科医療を実践できる臨床力を持つ歯科衛生士を増やすということだ。
そのためには歯科衛生士を主従関係でなくパートナーとして認めてくれる歯科医師も増やさなくてはならない。
だから歯科医師とも関わろう、歯科医院ごと関わろうとも心がけてきた。
以前
「どうせ患者なんか歯を磨かないんだから歯が無くなってオレが治療して
歯が入って患者もハッピーオレもハッピー
それが歯科医療でしょ、それでいいじゃん。予防なんていらなくない?」とある歯科医師から言われたことがある。
反論しても仕方ないかとその時は諦めてしまった。
その後も
他の歯科医師から「歯周病なんてさ、どうせ治んないんだから歯科衛生士は定期検診をこなしてくれさえすればよいんだよ。治さなくていいの。
それよりも歯科衛生士は患者に優しくして定期的に通い続けてくれたら良いの。
そのうち歯がだめになったら僕がちゃんと歯を入れて治療するから」と言われた。
その時は「歯周病の多くは治るんです。そしてもっと前から発症させないようにしたいんです。患者さんは歯を守ってほしくて先生のクリニックに定期的に来てくれているんじゃないですか?質の高いメンテナンスをしてほしいんじゃないですか?」と反論した。
そしたらかなりきつい口調で「アンタ、それでいくら稼げてるの?
自費のメンテナンスしてたっていくらも稼げないでしょ。
うちの歯科衛生士は保険だけど数をこなすからアンタよりずっと稼ぐよ」と反論された。
もちろん収益、経営は大事だけど「歯科医療」なのだから
そこに「患者さんの健康」という目的が無くてはならないと思う。
収益に重きを置いている歯科医師と話しても理解しあえないということをこの時に学んで
歯科医療の目指す方向が違う人とは関わらないようにしよう、関わってもそこは暗黙の了解で触れないようにしようと意識してきた。
なのに
再び別のクリニックの勤務医にまた
「どうせ患者は歯周病の治療なんて望んでないんだから、さっさとむし歯を治療して終わらせてあげたほうが良い。この地域はデンタルIQが低い患者が多いから話しても無駄ですよ」と言われた。
ぶよぶよの歯肉で、レントゲンでもたくさんの歯石がついているのがわかるのに。
今、歯周治療すれば歯周病で歯を失わずに済むのに。
「患者さんは知らないだけ、自分の健康に関心のない人なんてそんなにいない」と話したら
「あきらめてたけど、まぁ話してみます」と言ってはくれた。
そのクリニックは「予防に力を入れています」とSNSでアピールしているけど
通いながらどんどん歯周病が悪くなっている患者さんが多い。
歯科衛生士は「治せるようになりたい」と言い、熱心だけど
短時間で患者をこなすことを求められているし
共に働く歯科医師、院長が同じ方向を向いていないから口々に不安を口にする。
私もそれを聞いて切なくなる。もっと生き生きと働かせてあげたい。
院長先生は「予防をやってみたい」ということだったけど、本当にそう思っていたのだろうかと思ってしまう。
重い気持ちで帰途につき何気なくfacebookを見たら
知り合いの歯科医師がこう書きこんでいた。
「歯科治療で言えば、早く治療が終わって痛く無く噛めてついでに保険で白くなったら万々歳って人の方が圧倒的に多いことに気づかないんだか見ないふりだか知りませんが、
あーだーこーだ能書きたれて患者教育とかデンタルIQ低いとか言うのは驕慢だと個人的には思っていますけどね」
そこに「いいね」が5つも付いていた。
そんな歯科医療を続けてきたから国民の歯は失われてきたのではないですか?
歯を守る情報を伝えること、歯の大切さに気付いてもらうことが「患者教育」
決して驕慢なことじゃない。
患者さんはどうしたら自分の歯を守れるかを知る機会がないまま
人工物を入れ続けて歯が失われている。
歯周病は放置され続けて歯が失われている。
全身の健康にも影響を及ぼしている人もいる。
歯を守る歯科医療、それを実践する歯科衛生士を増やそうなんて幻想のように思えてきて
悲しくて情けなくて涙が出た。
医科歯科連携なんて夢のまた夢かもしれない・・。
歯科医療を変えたいと思ってきたけれど、変えようとしているもののその大きさを実感して今、心が折れそうになっている。
それでも、私の周りにはそこを望み通い続けてくれる患者さんがたくさんいる。
もっと早く会いたかった、もっと早く知りたかったという患者さんがいる。
そして健康を守る歯科医療を目指す同志がいるということに望みをかけたい。