【神道つれづれ 124】

※R6.4 発行「社報」268号より

 

いよいよ新年度。新しい環境に入る度、喜びと不安。相反する感情が高まってきます。神主資格を取得するために学んだ國學院大學神道学専攻科。卒業時に神職の資格を取得することが出来ます。老若男女不問。大学卒で神社庁の推薦があれば、誰でも受験することが可能です。

私は、神社庁の推薦が難しかったので、受験希望の理由の手紙を添えて、大学に願書を提出しました。今風に言うと自己推薦。果たして受験票が届き、受験させていただくことが出来ました。

入学してみると、社会人を経て、跡継ぎとして神職資格が必要な方、神社が好きで神主希望で資格を取る方、大学を終えたばかりの現役と、年齢も様々でした。神社関係者ばかりだと思っていたので、とても驚いたのを覚えています。

同期生三十名でスタートした新学期。男性の中に女性二人。ワクワク感と不安の中で、明治神宮実習から新学期が始まりました。実習で頼もしいのが、高年齢の方。早速、世話役の誕生で、少し緊張がほぐれたことが思い出されます。今回は、その風貌や性格からアマテラスと、ニックネームがついた同期生のお話です。

 

学生時代、彼が何のために神主を目指していたのか謎めいていた小島さん。そんな彼から、本を出したと連絡が入りました。『旧石器・国語辞典 中高生への遺言』文芸社出版。帯には「現職異端の宮司が送る中今を生きる青年への伝言・・」とありました。変わったタイトルですが、そこには、中今を生きる確かな日々から未来を案ずる神主としての彼の姿が感じられたのです。この本の番外編「神について」・・以下、本文より一部紹介します。

 

「それにしても気がかりは、信仰とまでは言わなくとも若い人らが あこがれるヒーローやアイドルといわれる一種の偶像たちである。「地上の哀愁を憂う」ために、種々の不安を癒す効果をもたらす存在なのである。非日常のときめきこそ子供らには無上の喜びであり救世主である。だが、ヒーローやアイドルたちは、実は多くの痛みと危険にさらされているのが実情である。だから、いつの日か自分を取り巻く現実と対峙して魂を粉々にして我に還ってほしい。等身大の我が身を見据え、ボクがボクであり続ける勇気があればよいのである。」・・

 

「一億年前から生育する地上の星、蛍にしても、ときめく恋も出来る短い生涯を生きる、この小さき惑星に棲むはかない存在である。生命体の一員として我らと変わらぬ同質の命運を思わざるを得ない。

そうしたならば、一度限りの消えゆく音を「あはれ」と思い、その一音一音を接ぎ継ぎ奏でながら<私>という寄る辺なき運命の侘しさを癒す音楽を練り上げてほしい。

霊力が宿る言霊の力を信じ書き添えてほしい。そのためにも、しなやかな耳を育ててほしい。世界から語りかけてくる様々な音に敏感であってほしい。・・

世界は、まだ発見されることを期待しているのであるから、この宇宙の一音一景を表現することで森羅万象の"つぶやき"を聴き直してほしい。」・・・

 

「きて、人と神との交流を果たしてきた神の使徒として、鳥や狐や熊や鹿や猿やふくろうや神烏と黒揚羽などは、常に神人の結界を行き来してきた。森羅万象のなかで生かされている人間にとり、かけがえのなき師であり、仲間であり、同胞(はらから)なのである。」   

そして、この本の最後に、ー「中今」とは、神道で「たった今」という今を感謝することが勧められている。ー と括られていました。

 

当時の小島さんが、何を考え神主を目指されていたのか、何となくわかった気がします。今も学生時代の学びを継続し 膨らませつつ、 神道人として実践されているようです。そんな生き方は、神主としてとても魅力的なことですね。感謝。