岡本豊彦(1773年~1845年) 「桃源の図」 絹本
横52㎝×縦116.5㎝
円山四条派の重鎮であり、岡山(倉敷)の出身の画家である。初めは尾道出身で大阪で活躍していた福原五岳に師事し、その後京都に出て松村呉春に師事した。
堂々とし華麗な「桃源の図」である。桃源郷の話は、陶淵明の詩文「桃花源記」を出典とする。
内容は、ある漁師が漁に出ていて、偶々桃の花咲く村を訪れることになる。桃の花々の満開の所を通過すると村が開け、その村人は世の推移もしらず、平和に過ごしていた。
この絵は桃源郷の入り口に立った漁師を描いているのであろう。
遥かな村々を望んでいる漁師の姿が印象的である。
漁師は村で歓待を受け、村を去るがもう一度村を訪れようとしても、もう二度と訪問することができなかったという。桃源郷とはある種の理想郷(ユートピア)で、現実には存在しない世界を描いている。
理想郷であるが故に、一面の桃の花に覆われた世界は、より美しいのかもしれない。
絵の年紀「文政庚寅」より文政13年(1830年)豊彦57歳の時の作品と分かる。豊彦円熟期の作品と言えよう。
漁師の遥か先に神社仏閣らしい建物が霞んでいる構図も、画面の広がりを表現し、見る者をゆったりとした桃源郷に誘うようである。