(第3話)
よく、
「3度のメシより~が好き」
と言われるが、浩太にとっては、「3度のメシ」どころの話ではない。
クラシック音楽、そしてヴァイオリンは、浩太にとって人生の全て、と言ってもよかった。
もちろん、プロとして活躍するためには、3歳や5歳頃からの英才教育が普通だ。15歳から始めた浩太には、10年のハンディがある。しかし、それをものともせず、麻生さんも斉藤先輩も、音楽家となるべく自分の夢を実現していった。
「スズキ・メソードに、子供の頃に出会っていたらなあ~!」
よく、そんな独り言を言った。
地元には、地方に珍しくプロのY交響楽団があるが、財政難で運営にはかなり苦労しているようだった。ちらりと、「団員募集」の要綱を浩太も見たことがあったが、給与の余りの安さに愕然としたものだった。
「収入を求めて、音楽家になる人はいないよ。
演奏できるってことが、最大の報酬なんだからね」
麻生さんは、よくそんなことを言っていた。
(ところで、俺はどんな人生を生きたいのか?)
クラス担任の布川先生は「倫理社会」、もっといえば「哲学」の教師だった。人間的にも尊敬できたし、3年間のうち2回担任になったので、布川先生の言うことは素直に聞ける。
高校3年生。
誰もがぶつかる、「進路」という名の関所。
いるのは、「自分の心」だけ。