(第4話)

 

はる香とは、8月の夏休みに別れた。

 

6月の定期演奏会終了後、樋口や森山は

「次は、受験だ」

と気持ちを切り替え、きれいさっぱりと音楽室からは足を遠のけ、受験モードに行動と気持ちを切り替えていた。

 

いっぽう浩太は未練がましく、何度か音楽室の後輩たちの姿を覗いては、要らぬおせっかいを出していた。それが2年生たちからの反発を食らい、後任でコンマス(=女性はコンサート・ミストレス)を引き継いだ はる香から

「浩太さん、やりにくいから、もうちゃんと引退してください」

と釘を刺される始末。それ以降、ギクシャクしてしまい、続けていた交換日記も滞りがちになった。

 

そして夏休みのある日。夏期講習のあとの午後に はる香は浩太を音楽室に呼び出し、

「もう、普通の先輩・後輩に戻りましょう」

と、事実上の交際解消へと進んだのだった。

 

サッカーで「切り替えの早さ」がウリだった浩太だったが、クラシック音楽に目覚めてからはその良さが失われていた。

 

受験生にとって、高校3年生の夏休みは、文字通り一生を決める。

その大切な夏休み期間中、浩太は「定演ロス」と、はる香からの失恋のダブル・ショックで、落ち込む毎日だった。

 

チャイコフスキーの「悲愴」交響曲、モーツアルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調などの暗い曲調の曲を好んで聴いては部屋に引きこもる毎日を過ごした。母も姉も心配をして、

「ちょっと~!大学、本気で、行く気あるの?」

と再三はっぱをかけるも、

「ああ~ま、そのうち本気だすから」

とつれない返事。

 

そんな浩太の姿を父は何も言わずに無関心を装いつつ見守っていた。