【 最後に、見えるもの 】 | 週100時間働く内科医のブログ 【王子北口内科クリニック】

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勤務医・開業医を兼業しながら、人生の目標を達成するために考えたことをつづります。

【 最後に、見えるもの 】

 

ここ、数週間、

夜中も、休日も対応してくれていた

訪問看護ステーションのナースと

毎日のように連絡を

取り合っていました。

 

「絶対に、うちに帰りたい」

「苦しいのも、痛いのもいや」

「しゃべるのも苦しい」

 

と、おっしゃる患者さんと

家族の、望みをなんとか

叶えることを、一番に考え、

 

なんとか、入院していた病院を出て、

住みなれた自宅へ

戻っていただくことができました。

 

ひさびさの自宅に戻ったとき、

ご自分の部屋の「におい」を

うれしそうに、吸い込んでいたそう。

 

すでに、呼吸も、

ままならない時期だったのに。

 

それから、数週間。

 

非常に多くの人たちの協力を

いただきながら、

うちのスタッフも、

何度もご自宅に足を運びながら、

 

日々、目に見えて変わってゆく、

身体の状態を、診てきました。

 

そう、どんなに、

ことばでごまかそうにも、

ごまかしようのない、

 

「死」に近づいてゆく、

身体の様子を診ながら、

根本的には、何もできないまま。

 

もう、しばらく、

視力を失っている方だったので、

天気も、訪れるスタッフの顔も、

見えないと言っていました。

 

でも、

 

それでも、

 

うちのクリニックのスタッフの

名前をはじめ、

関係した各職種の

ひとたちの名前を、

それぞれ、口に出して

呼ばれていました。

 

 

今日の昼下がり。

 

 

すでに呼吸の止まっている

患者さんの、ベッドサイドから

見渡す空は、晴れていて、

窓から、気持ちのいい風が入り込む。

 

ほんの、短い期間だったとは言え、

患者さんを訪問するたびに、

必ず、私の帰りがけに、

何度も、

 

「先生、こんどは、いつ来るんですか?」

 

と尋ねられていたのを

思い出します。

 

 

最後の時間。

 

 

目の見えない、その方は、

何を見ていたんだろう。

いよいよ、命の灯が消えるそのときに、

何が、見えていたのだろう?

 

帰り道、ふと、思いました。

 

 

いつも会うたびに、

私や、同行している、うちのクリニックの

スタッフの体調を気遣ってくれていた

その、患者さんのお姉さん。

 

今日、私たちが引き上げるとき、

泣きながら、

握手をしてくれた、

そのお姉さんの手からは、

それでも、ひとつの仕事を

やりとげ、肉親を送り出したひとの

寂しさと、満足を感じたように

思います。