マンハッタンのグランド・セントラル駅からクイーンズへ走る7番の電車に乗ると、窓から"Graffiti/グラフィティ"のメッカである5Pointz(ファイブ・ポインツ)が見えました。2日前までは。
現地時間で19日の
夜中1時から朝7時の間、ポリスの警備立会いの下に、多彩なアーティストたちの作品は白いペンキで塗りつぶされました。


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2010年に7番線から撮った5Pointzのメインビル。こちらは裏側。



昨夜NYの友人とチャットして、嘆願書提出を初めとした抵抗運動が展開されていたこと、美術館の学芸員やロコ・コミュニティーなど保存を模索した人々が訴えた裁判で、裁判所がグラフィティをアートだと認めなかったこと、そして追悼のキャンドル・イベントが塗りつぶされた後すぐに行われ、参加してきたことを聞きました。


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The NY Times のウェブ版から。確かに衝撃的な光景であります。



5Pointzは元々は、器物破損に当たるストリート・アート、スプレー缶による落書き(グラフィティ)を制作するアーティスト達に、作品を発表する場所を提供する目的で開放されたオープン・ギャラリーです。経過はウィキペディアに詳しいので、興味がある方は読んでください(こちら)。

日本でも人気の高いストリート・アーティストにキース・へリングがいますが、彼の画材はチョークで、グラフィティのエアロゾルは塵肺に至る健康障害をもたらし、空気汚染にも関わるやっかいな代物です。その上に破壊活動と言える器物破損を結果的に行う、グラフィティアートのイメージをポジティブにサポートしたという点でも、ビルのオーナーであるジェリー・ウォルコフ氏の貢献は素晴らしいと思います。


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この建物は老朽化が進み、ニューヨーク市建築局から閉鎖を命じられました。ウォルコフ氏は跡地に建設する2連の高層住宅のビルの中に、5Pointzのグラフィティ・アートを新たにサポートする、10,000平方フィートのカンバスになるべくスペースを設ける予定です。20年以上に渡ってストリート・アートの理解者であった事を誇りに思うとコメントし、これからも地域をアーティストたちに開放、提供していくとしています。

この事の成りゆきを見ていてまず感じたのは、「何だか次々と終わっていくな。」というものでした。NYが、どんどんコマーシャルな場所になっていく。もちろんいつでも、コマーシャルな街ではあるのですが。
マンハッタンの東側、イースト・リバーの景観を望めるファンシーな高層ビルの中に、本来はストリートで反体制のエネルギーをぶちまける路上のアートが、ブランド・ブティックの商品のように取り込まれる。それも観光客が訪れるような空間になっていくのだろうな。


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あれほどNYな場所が無くなるのは悲しく、とても残念ですが、資本主義の現実です。その現実に向かい合い、それと共に生きる人々を尊敬します。白く塗りつぶされたビルの壁はショッキングではありますが、現実に直面するためのクッションを与えてくれた配慮であると感じます。もう取り壊しは確実に実行され、アートを保存する時間も方法もない。作品そのものが描かれたまま取り壊されるビルを見るよりも、さよならに直面する時間ができたのです。

I feel deeply sorry for those of the artists, admires, the ones who had to decide this should be done, and those who actually worked on wiping clean the walls of the arts.

Yeah, I know that sometime things just don't work. I know.


アーティストたちに、そのアートを愛してやまない人たちに、このことを決断せざるを得なかった人たち、そして、実際に壁のアートを塗りつぶす作業をしなければならなかった人たち、その全てに深いお悔やみを。

そう、どうしようも無いことも、あるんだよね。解ってます。



それも受け取り、抱きしめたら、手放していく。手放していきます。






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