【映画】ミッシング | 野球と映画、ときどき…

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ただ、映画鑑賞は私のライフワーク

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好奇心のおもむくまま「おきらく」に

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ミッシング(2024・日・119分)

監督・脚本:吉田恵補

出演:石原さとみ 青木崇高 中村倫也ほか

 

幼女失踪事件で世間からの誹謗中傷に

心を失っていく母親と彼女を支える夫の献身。

一家に協力、寄り添いながらも

報道の在り方に苦悩するテレビ局報道部記者。

大切なものを失った人たちの魂の救済ドラマ

 

震災、事故、事件など理不尽な形で

愛するものを失った喪失感は図り切れません。

子供の失踪というデリケートなテーマに

真っ向から挑み不寛容な時代の闇も描きつつ

「でも、世の中捨てたもんじゃないでしょ」と

苦しむ当事者(両親や家族)

そして私たち観客にも心を寄せてくれます。

 

365日、育児と家事に追われ自分の時間がない。

久しぶりのプライベートな外出。

推しのライブ参加は単なる気分転換だったはずです。

懐いている実弟に娘を託し心配は、なかったはず。

他の364日はちゃんとしてた。たまたま、その日だけ。

その300メートル。たった10分間だけなのに。

なぜ娘は、姿を消したのか?

 

迷子か誘拐か失踪か子供の年齢問わず

突然、わが子が姿を失ったときの恐怖。

私も一度、子供が迷子になったことがあります。

だから石原さとみさん演ずる母親・紗緒里が

後悔と恐怖と怒りに心が苛まれていく様は

直視できない痛々しさも感じました。

しかし、当事者(両親)は当然、その家族や関係者も

同様に生涯、癒されぬ傷を負っています。

 

娘の失踪前まで一緒に過ごしていた主人公の実弟

彼の幼少期のトラウマや隠された真実が

事を複雑にもするし物語のキーにもなります。

気遣うより母親を責め立てるような祖母

心配するふりして好奇心向きだしの職場仲間

腫れ物に触るように接する同級生の保護者

世の中、嫌な奴がいっぱいいます。

さすがの吉田恵補監督。人物描写は的確です。

 

考えられる様々な障害や問題をちりばめて

娘を探す両親の心情をリアルかつ丁寧に描きます。

石原さとみさんは、ヘタをすると

オーバーでエキセントリックな演技が

否定的にとられかねないところ

ギリギリ不快感を感じさせない

絶妙なリアルさで演じます。

声にならない叫びとか嗚咽って凄いです。

 

そんな沙織里に寄り添う

夫の豊役・青木崇高さん。

妻を気遣う優しさと家族を守る冷静さを併せ持ち

しかし、一方では娘の安否に不安と悲しみを

抱く父親の心情を丁寧に演じていました。

石原さとみさんとの相性がとてもよかったです。

 

そして特筆すべきは

報道記者役の中村倫也さんです。

正義感と使命感と現実の中で

戸惑い苦悩する姿はサラリーマンの

共感を呼ぶと思いました。

彼もことさらオーバーな演技ではなく

控えめで熱くなりすぎず淡々と演じています。

そこが逆に怖かったり哀れだったり

組織人あるあるだよな、と思いました。

 

吉田恵補監督の作品の優しいエンディングは絶妙です。

この残酷な現実にどう折り合いをつけるのか。

沙織里と豊を、どう救うのか?

報道記者は今後、何をどう伝えていくのか?

それは映画館で直接、確認していただくしかない。

 

小説や詩など言葉では表現できない温かさや

心の憎しみや苦しみが解放されていく瞬間を

見事に映像で表現した奇跡を

スクリーンで観ることができます。