ディスクロードのスルーアクスルについて考える「スルーボルトは効果的か」 | ヒト・モノ・アソビ... 人生を楽しく快適にしてくれる素敵なものたち

ヒト・モノ・アソビ... 人生を楽しく快適にしてくれる素敵なものたち

サイクルと山遊びのオキドキライフスタイルから発信

onideration about thru-bolt systeme by DT SWISS
 
これまではマウンテンバイクのトレンド?であった「スルーアクスル」がロードバイクのディスク化と共にロードバイクもスルーアクスルがもはや標準というほどにまで浸透してきました。そこでそのスルーアクスルは本当に効果的で必要なものなのでしょうか?そしてスルーアクスルに対して「スルーボルト」という物は効果があるのでしょうか、を実際に装着して検証してみようと思います。
 
 
・そもそもスルーアクスルとは?

スルーアクスル(左)とスルーアクスル用フレーム(リア)の一例

thru(正しくはthrough)なaxleですから「貫通した車軸」つまり自転車はもちろん二輪車全般に採用される一般的な車軸(ハブ)構造です。それが故にオートバイではわざわざ「スルーアクスル」という名称で区別されることはありません。片持式等を除いてすべてが貫通軸だからです。ではスポーツサイクルに使用されるスルーではない方式とは、いわゆる「クイック」で取り付け、締付がされる9㎜クイック(前輪)10㎜クイックと言われるものです。「QR」などとも呼ばれれるカンパニョーロ社が発明によってスポーツサイクルに広く広まったものです。QR式では外径9㎜あるいは10㎜の中空の車軸の中に多くの場合5㎜程度のクイックシャフトが貫通しており、このクイックシャフトが引き付けられてフレーム(フォーク)がハブ軸のフランジ(当たり面)を挟み込むことで固定されます。貫通しているとは言えない9㎜もしくは10㎜のハブ軸は上方からのフレーム(フォーク)の荷重は支えるものの、フレーム(フォーク)との固定力はあくまでフランジ面とフレーム(フォーク)の内面であってそれが十分に強固であるかどうかが問題に上げられる、というわけです。僅か直径20mmに満たない小さなフランジの面接触だけで、クイックシャフトのレバー(カム)だけで、十分な固定がされて軸のズレや「捩れ」が本当に排除できるのでしょうか?  
そのクイック式に対して車軸がフレーム(フォーク)を突き抜けて抜けているものが「スルー」な状態です。ならばほとんどのオートバイや自転車であれば軽快車(一般車)も車軸(ボルト)が突き抜けてナットで固定されていますので、広義には「スルーアクスルなのですが」どうやら切り欠きやスリットのない状態のフレーム(フォーク)側の丸穴を通ったものを「スルーアクスル」と呼ぶようになったようです。この構造で捩れを抑制しようというのですね。えっ!捩れ(ねじれ)?
 
 
・元々はマウンテンバイクの「サスペンション用」として採用された
「捩れ」という言葉が出てきました。「捩れ」とはどこが「ねじれ」ているのでしょうか。自転車、とくにスポーツバイクで「スルーアクスルが」と必要視されたのはディスクブレーキのためではなく「サスペンション」つまりテレスコピックフロントフォークの出現によって、と言えます。伸縮する2本の円筒形で構成されたサスペンションフォークはそれぞれの「脚(レッグ)」の1本1本が自由に回転してしまう構造です。この2本が各々回転してしまうとそこに挟まれて取り付けられたホイールの左右の動きによってフォーク全体としても簡単に「捩れ」が生じてしまいます。フォークがねじれるということはハンドルを切ってもホイールがその方向に向かない、あるいはタイミングがずれて向く、思った量だけ向いてくれない、そして支えるべき横方向の力が逃げてしまう、といった数々の問題が生じてしまいます。サスペンションフォークではこれを防ぐために「ブレイス」と呼ばれるアーチで左右を繋ぎ、「捩れ」を抑制しようとしています。製品によっては裏表の1対のブレイスを備えて捩れを抑え込む工夫がされたものも存在しますが、捩れの元になる力が発生しているのは車軸側であり、それだけでは不十分なことが実情です。そこで採用され始めたのが「スルーアクスル」。車軸を保持するロアレッグに強固なアクスルを貫通させてしっかりと固定するというモーターサイクルでは当たり前に採用されている(ので倒立フォークも可能なのですが)方式を採用することです。特にサスペンションストロークの大きなトリプルクラウンのサスペンションのボトム用としての採用が当初でした。しかも本来の目的は左右のボトムケースとアクスルをしっかりと一体化して強固に固定することですから貫通したアクスルは「ピンチ(クランプ)ボルト」によってはさみこんで締め付けられていました。アクスル径が拡張して固定するものもあります。その後にはその優れた剛性による追従性や操作性によってシングルクラウンのサスペンションでも採用されるようになり、アクスルのサイズや規格も20mmx110㎜→100㎜x15㎜→110㎜x15㎜などと変遷してきました。ただ、残念なことに強固な固定よりも簡易な脱着を優先した?結果、ピンチボルトでの固定や拡張式による固定が簡便化され、ただの左右から締め付けるだけの「スルーアクスル」がほぼ大半となっています。本来の「スルーアクスル」としての機能や目的は半減していることも実情です。本来ならフォークとアクスルががっちりと固定されるべきところを、片側どちらかの一端が「ただ穴を通ってるだけ」で固定されていないため、「不完全な保持」となっているからです。
この時点ではロードバイクのスルーアクスルの必要性は特に取りだたされていません。なぜならサスペンション機構を持たないロードバイクはクラウンで繋がっていて左右のフォークレッグ(ブレード)が簡単に捩れてしまうことはほとんど気付かず、問題に挙げられていなかったからです。「ほとんど」?ですがフォークがエアロ効果などで翼断面化して捩れ易い方向には進んでます。繊細な方には感じられるかもしれません。

マウンテンバイク(フロントサスペンション)のスルーアクスルの例。両レッグにクランプ((この場合はレバーで固定)(左)とアクスルがレッグの穴の中で拡張して固定するタイプ(右)
 
 
・ディスクブレーキによって注目、採用された「スルーアクスル」
マウンテンバイクのサスペンションによって上級モデルから浸透していったスルーアクスルですが、クイックシャフトの取り付け(締付)不良でもホイール脱落の事故リスクが少ない、ディスクブレーキとの関連してアクスルのズレによるロータの擦れなどが発生しないという点で更に広くスルーアクスルが広まりました。ロードバイクにも採用され始めたディスクブレーキでしたが、サスペンションとの組み合わせでの必要性よりもこれらのディスクブレーキとの組み合わせた際の取り扱い不良のリスクを回避するため、そしてハブやホイールを製造するメーカーとしては製品規格をなるべく統一して種類を少なく(コストダウン)する思惑もあって、マウンテンバイクで規格統一化の方向に向かう、「フロント「100㎜スルーアクスル」「リア142㎜スルーアクスル」を積極的に推し進める結果となりました。本来はマウンテ
ンバイクのサスペンションでの捩れを抑制するためが本来の目的でしたので、マウンテンバイクは必要な太さの「15㎜」を維持しましたが、元々その必要性のなかったロードのフロント、そしてリアに関しては12㎜のものに落ち着き、規格の統一には至りませんでしたが・・・
本来のフォーク(フレーム)の捩れを抑える、よりもディスクブレーキ装着時の使い勝手(位置決め)や締付不足でもズレてしまわないという目的に移行(迷走)してしまったために、当初の目的のスルーアクスルとはその構造が変わってきてしまった面もあります。現在主流となっているスルーアクスルでは、先端にフレーム(フォーク)にねじ込むための雄ねじが切ってあり、反対側はクイックと同じくレバーやあるいはレンチで締めこむ構造になっています。ですからレバー側のフレーム(フォーク)はただ「穴」が開くているだけで、軸を強固に保持する構造ではなく、軸方向の締付(押し付け)による摩擦によってのみ固定されています。この構造だと締付が多少不足しても、穴によって車輪が脱落したり、大きくズレてしまう心配は確かにありませんが、本来のスルーアクスルに求められてた「軸を強固に保持して捩れを抑える」の効果はほぼ期待できず、実際には上記のクイックシャフトによる締付に劣ることは無くとも、飛躍的な効果は期待できないといえるでしょう。それでも「絶対に効果が感じられた」というのはやはりクイックシャフトでの固定が余りに頼りないものだったのだとも考えられます。
一時期、フォーク(フレーム)の「切り欠きを埋める」という鉄製のワッシャーが話題?になりました。切り欠き分のために締付力が均一ではなく(固定力不足)、中空の車軸を曲げて回転を妨げている(本当!?ププッ)というものです。ところが使用者の投稿画像を見るとすき間が開いているのに「効果があった!」とかの記述があったりw 効果がない、とは言いませんがフォーク(フレーム)と同じ材質で寸部の違いない寸法でなければ、すき間があって効果が無いだけでなく、0.1㎜でも厚みがあればフォークに固定ができていない非常に危険な状態です。それでも多くの人が「効果があった」と実感するのですから、恐らくこれによってはじめて「締付強さを意識した」だけの結果ではないかと思っています。
スルーアクスル、に話をもどしますと、現状の構造ですと、ディスクブレーキに伴う使い勝手の向上は有っても、サスペンションで見られたような本来の効果は期待できない。総合的にはそれほどの大きな効果、必然性はないかもいれません。(ピンチボルトや拡張式で完全固定するものを除いて)
 
 
・クイックシャフトの欠点
少し戻ってクックシャフトで何がだめなのか?を改めて考えてみます。上述の様にクイック式の中空の車軸はフォーク(フレーム)が乗っかっているだけで軸には固定の要素がありません。ハブ(軸)とフォーク(フレーム)が固定されているのは当たり面のロックナットでありそれに相対するナットやレバー基部との挟み込むことによる摩擦です。締め込む力が十分であれば大きな摩擦で固定されるため、ズレの心配はないのですが、フォークやフレームの材質によっては簡易なアルミだけで作られたナット(レバー側も)では「滑り」が懸念されます。ナットの当たり面が鉄(ステンレス含)で造られているものは現行では「マヴィック」「DT SWISS」が主なもので、それ以外の特に「軽量」が売りの製品ほどアルミ製です(シマノでもM960辺りからアルミナットを採用になってしまいました)。それでなくても取り扱い方で充分な締付が行われてない上に材質で滑りやすい、となるとホイールのフォーク(フレーム)への完全な固定は期待できず、結果的には捩れが起こりにくいロードバイクですら、ハンドリングに切れがない、思ったように曲がってくれない、と言うことが起こります。試しにクイックシャフトを「緩い目」に取り付けてフロントホイールを膝で挟んでハンドルバーを右左に動かしてみれば、どの程度のフォークとハブの接点で「捩れ」が生じているかは簡単に実感できます。同時にどの程度の締付が本当は必要なのかも体感することができます。
加えて、フォーク(フレーム)から引き付けているのは外径5mm程度クイックシャフトです。強度や伸びで不十分とは言いませんが車軸に対して「直角」ではありません。よく言えば「調心」、悪くいえば場当たり的な不均一な締め付けですからフォーク(フレーム)に切り欠きがあれば強く締めた力はその何もない空間に逃げてしまっています。これでは幾ら強く締めたところで、強くは固定出来ていない、というわけです。それと、これはクイックシャフトの問題ではありませんが、最近のハブはフレームとの接触面がアルミのものが多くなってきています。スルーアクスルとの兼用設計にするためのアダプターがアルミだからの結果ですが、ナットの接触面がが幾ら鉄でも、肝心のハブ側がアルミ製であれば結果は同じことです。この点を徹底しているのは唯一「DT SWISS」だけでしょうか。軽量を重視するモデルにも徹底しています。

9mm・10mmアクスルのエンドキャップとクイックシャフト(Φ5mm) フレームとの当たり面は「スチール」が埋め込まれています
 
 
・スルーボルトとは?
そこで、ここからがようやく「本題」です。
長々と、スルーアクスルは何か?その効果は?ではクイック式は?ということを述べてきたのですが、結論としては、スルーアクスルは本来の効果は十分では無いとしても避ける必要もない歓迎べきものであること。一方、クイック式は(サスペンションでなければ)特に問題はないのですが、構造や素材、そして取扱い次第では性能を発揮できない、時に危険ともなる、そしてスルーアクスルに匹敵する効果は期待できない、ということになるようです。
では、今すぐにスルーアクスル(のフレーム&ホイール)に買い替えなければならないのか!というとそれに越したことは無いのですが現実はそういうわけにはいかないでしょうし、ワッシャーではどうやら改善できないようですから、さてどうした物かというところです。
そこで(やっと)提案するのがDT SWISSの「スルーボルト」です。スペシャライズドのOEMフロントホイールに採用されていたこともあるので目にされたことがあるかもしれません。構造としてはハブはスルーアクスルのように軸穴が開いています。その軸がフロント9mm、リア10㎜の貫通したもので片端がナットになっています。クイック式フレーム(フォーク)をスルーな軸で使用することができる構造というわけです。
「そんな形だけスルーアクスルのようなことにしても中途半端で不十分なんじゃない?」というのが素直な第一印象でしょうか。ところがよく観察してみると、そして考えてみると実は実用的で効果的な方法なのでは、と気付いたわけです。
サスペンションフォークのように左右のレッグが各々動いてアクスルに大きな「曲げ力」がかかるのであれば大きな径が必要でしょうが、リジッドフォークではその心配もなく中実の9mm/10㎜ですので十分でしょう。固定方法も回して締めるに工夫がありむしろスルーアクスルのクイックレバー式よりも強固に固定できるようです。太い(9mm/10㎜)軸に直接ネジを切っていますので精度の高い直角度でフォークの切り欠きに関係なく均一に締付ができます。手で回すレバーとフォークに接する部分が自由に回転できるスイベル(アキシャルベアリング)構造となっていますので摩擦によって強い力で締め付けられない、がありません。そして、ハブ側、ナット側、全てのフォーク(フレーム)当たり面に滑り止めの鉄製となっていますので、フォーク(フレーム)の材質に関わらず強固な固定ができるのです。スルーボルトは形だけの「ナンチャッテ風」ではなく実に効果的な構造、さすがDT SWIS!というわけです。

これが「スルーボルト」 それぞれ9mmと10mm。5mmのクイック軸と較べると径が倍w
 
エンドキャップを交換してアクスルを入れた状態。フレーム(フォーク)との当たり面への配慮は抜かりなし。


外観では全くなにも変化なし。ということはリアは標準のハブ軸スタンドやローラー台も使用できるということ。
 
 
・スルーボルトは伝統的フレーム(フォーク)において有効な効果を産む最善唯一の方法
簡単にまとめてみます。
◇本来の「スルーアクスル」はサスペンションフォークのように左右のレッグが自由に動くような構造の場合は非常に有効、かつ必要
◇現座主流の両側から締め上げる「スルーアクスル」の場合は固定力としては不十分ながら、ロードなどのリジッドフォークではほぼ過不足ではなく、むしろディスクブレーキを装着した際の「位置決め」や「安全性」ために採用
◇5mmクイックでも十分とはいえ、スルーアクスルやスルーボルトほどの確実性ではなく、取り扱いや材質によっては不十分な能を示す
◇スルーボルトは12㎜スルーアクスル並みの固定力を実現でき、これまでのクック式のフレーム(フォーク)にも導入が可能
つまり、
ディスクロードに買い換える/買い増す、であればスルーボルトは必要ないでしょう。そうではなく従来フレームをカルト的なワッシャーに頼らずに「まともな旋回性、ダンシングの推進性」を向上しょうとした場合には、このスルーボルトが唯一で、そして確実な方法だと考えられます。
DT SWISSのハブの場合、「9mmクイック」↔「スルーボルト」↔「12㎜スルーアクスル」がアダプターの変更だけで可能です。ホイール(ハブ)の基本的な性能を維持しながら、フレーム(フォーク)に応じて最善のアクスル方式が選べるのです。折角買ったホイール(ハブ)がフレームの入れ替えで全く使えなくなってしまうのは非常に残念ですが、DT SWISSであれば単なる寸法合わせのアダプターではなく、機能的にも維持(あるいは向上)できることは経済的にもメリットがありますし、何より「正しい選択ができた」という満足感もあります。もしも、お手持ちのロードバイクが「クイック式」であったとしても、そのハブが「DT SWISS(系を含む)」であれば「スルーボルト化」できる可能性があるとことになり、さらに将来に12㎜スルーアクスルのフレーム(フォーク)へとなった場合にもホイール(ハブ)はそのまま使用できるということです。もしくは今から買うホイール(ハブ)は「DT SWISS」を選んでおけば将来どのようなフレーム(フォーク)にも高い性能のまま移行して長く使えるということになるようです。長く使えるということはメーカーにとってはあまり得ではない、ユーザー想いの設計ですがね。
 

さて、その実走結果は?
CAAD12 DISCに、前後共に9mm/10㎜のスルーボルトに換装して実走しています。残念ながら小店主の鈍い感覚では、あるいはCAAD12に採用されているフォークの捩れ剛性が元々高いからか、雑誌や他のブログやレビューで見られるような「圧倒的に判る剛性アップ!」「この違いが判らなければ自転車やめても良いのでは」という表現の相当明確な性能アップまでは感じられませんでした。急こう配とタイトなカーブで定評(不評)の地元の裏山ドライブウエイの下りでしたが、相変わらず気持ちよくスパスパッと小気味よく回れます。それ以前の状態に大きな不満を感じていたわけではありませんが、さらに「自然に」カーブに飛び込んでいき、驚くほどの変化も、そして恐怖を感じることもなく極めてナチュラルに走ることができています。もしかすると「同じ様に」走っている感じているつもりで、以前よりも速度があがっているのかもしれません。逆に同じスピードで走っているならその余裕からより安全性が高くなっているのかもしれません。性能向上が実感できることも重要なことですが、より自然な感じで安全に走ることができる、ならそれも重要なことだと思います。
今回の検証でスルーボルトに限らず、DT SWISSのハブなりホイールなりに対する真剣な理論、思想を改めて実感することになりました。飛びぬけた話題性ではなく、正に「実直」ともいえるモノ作りに対する思いの一部を感じることができました。信じて選んで良い製品、メーカーだと思いました。