ベアリングのはなし。カンパニョーロハブベアリングのメインテナンスについて | ヒト・モノ・アソビ... 人生を楽しく快適にしてくれる素敵なものたち

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自転車を構成する要素で重要なモノのひとつに回転部分があります。人間の脚の動きを回転運動に変換し、タイヤを回し推進力としているのですから、むしろ「回転体の組み合わせの乗り物」といってよいほどでしょうか。方向を決める操舵もハンドル軸を左右に回して行う、これも回転体です。前後の車軸、クランクの軸、ペダル、フリー機構、ブレーキの支点や変速レバー、変速機、そして舵をとるフロントフォークなどに回転する軸があり、そのほとんどにベアリングが用いられています。つまり「回す」側は人間の出力に依るのですが、「回される」側の自転車としてはそのベアリングの良し悪しによって機能や性能を左右されているといってもよいものなのです。
 
自転車を構成してる回転軸の中でも特に前後の車軸だけは他の回転部部分とは比べ物にならない部分です。せいぜい回しきれても200rpm(分間回転数)で荷重は頑張っても乗り手の体重までというボトムブラケットに較べれば、どう頑張っても「1回転」しないヘッドベアリングに較べれば、車輪径によっては1000rpm以上、乗り手の体重とバイク重量に加え、遠心力やブレーキ作動時の慣性力もまでが作用していることになります。加えてペダルを回しているいないに関わらず走行中は常に回転していて、走行抵抗にも影響を与える部分です。自転車に用いられている軸、軸受、つまりベアリングとしては最上級に重要な箇所がハブベアリングということになりす。
お客様の自転車をお預かりして整備する中で、このハブベアリングの状態が気になるケースが多数見受けられます。「ガタつき・グラつきがある」「回転がスムーズでない(引っ掛かりを感じる)」「潤滑状態が十分でない(回転が重い)」・・・などなど。 分解洗浄、給脂や調整、小部品交換で簡単に対応できるものはそれでも良いのですが、中には「手遅れ」的な場合があり残念なケースも見受けられます。手遅れ、というからにはそれ以前に手を尽くすべき段階があった、ということになるのですが、つまり不具合が発生する前にメインテナンスが必要だったわけです。 MAVICやDT SWISSのようなラジアル(カートリッジ)ベアリングではそれも不要ですが、カンパニョーロやシマノのような分解調整式アンギュラベアリングを採用するハブの場合にはどうしても必要になってきます。 今回は救いの手があるカンパニョーロのハブベアリングについて少し説明してみたいと思います。
 
問題が続けて見られたのはカンパニョーロ製のハブを使用したホイール。「USB」と呼ばれるベアリングシステムですが、決して安くはないものですので、大きな出費をご負担いただくことが無いように、と説明したいと思います。

その前にベアリングの種類について。自転車、特にスポーツサイクルに採用されるハブベアリングにはラジアルベアリングを使用したものとアンギュラベアリングを採用したものがあります。前者は(自転車業界では)「工業型」というダサい名前で呼ばれたりしますが、世間一般では単に「ベアリング」と呼ぶとコレを指すことが多い、外輪と内輪、転動体(ボールやローラー)が一体になったもので広くモーターサイクルのハブや交換だけでメインテナンスができるために使われているもの。そのサイズが全世界で共通の「規格」で統一されているため、「規格ベアリング」等とも呼ばれています。そしてもう一つは今回の主役、なぜか自転車業界内でだけ「カップアンドコーン」というアイスクリーム屋かという超ダサい名称で呼ばれることもある、軸方向にも接触分角を有する規格の、あるは規格のない「外輪・内輪・ボール(時に玉受け・玉押し・ボールという海外では到底通用しない名称で呼ばれる)」で構成されるベアリングシステムです。例えばモーターサイクルのステアリングに使われるなど主に「軸方向荷重」を重視した構造で採用される方式です。なぜ一部のハブメーカーはアンギュラベアリングをハブに採用(頑なに?)するのでしょうか。メーカーのカタログなどによると、「カップアンドコーンでは負荷に対してダイレクトに応力が働くため(中略)すべてのハブにカップ&コーンを採用している理由です」云々の記述があります。旋回時の遠心力など「横方向」への荷重に対してのことを指すのでしょうが、でも遥かに速度域の高い、重量も大きなモーターサイクルでもラジアルベアリングで全く問題なく使われていることからそこは問題にならないのではないでしょうか。ラジアルベアリングも決してラジアル方向の荷重に対してしか機能しないのではなく相当量の(およそ定格の半分くらい)は軸方向(アキシャルと言います)荷重に耐えられる性能を有しています。(例:軸荷重で作用する自動車やモーターサイクルのクラッチベアリングはラジアルベアリングです) もし仮に「遠心力が~」というのであればサクっと試算してみると、乗り手+バイクの質量100㎏、カーブの回転半径50m(一般的に急カーブと言われる曲率です)、時速50kmという到底曲がりきれそうにない速度で発生する遠心力は0.386KN 。2輪に分散されるとして、各々のベアリングに作用するアキシャル荷重は半分、さらに1輪に複列でされているのでさらに半分・・・と考えるとその力はさらに小さくなります。更にカーブを曲がっているときは当然バンクして旋回しますから遠心力はラジアル方向へも分散して支持されるということになります。 ・・・大きく脱線しました。要はラジアルベアリグでいいのに、ということです。
 
で、そのカンパニョーロのハブ(ホイール)にはラジアルベアリングでない調整式の「カップ&コーン」とも呼ばれるベアリングの方式が採用されています。ハブにアウターリング、車軸にインナーリングが組み込まれ、そしてベアリング球を挟み込んでいる構造です。さらにこのUSBではセラミック製のベアリング球が採用され、「ウ(U)ルトラス(S)ムースなベ(B)アリング」というわけです。あの「セラミック」!ですっ。このセラミックベアリング(球)の優れた特徴をおさらいしておきますと…
・硬度が高く変形によるロスが少ない
・真球度の精度が高い
・液体潤滑の必要が(ほとんど)ない
・重量が軽い

などなどです。液体潤滑の必要がないため、粘性抵抗をとなるグリス類が少なく最小限にできるため、回転の抵抗を大幅に低減することができる、つまり「速くなる」というわけです。なるほど、良さそうです。
ところが・・・ 作業でお預かりしたホイールはこのUSBなのになにか引っかかった感じの回転なのです・・・
 
実はセラミック球の特徴でもある「高硬度」ですが、そのボールが走る「レース」が金属である場合は硬度の低いレース(カップ、コーン?)側、つまりハブボディや車軸側が摩耗しいていきます。硬いものと柔らかいものが接触していれば柔らかい方が先に摩耗してゆき、接触表面がキズついたりして平滑でなくなるというわけです。摩耗が進めば幾らかの「ガタ」も生じますし、ガタは衝撃を生み、またすき間ができることによって埃などの異物が内部に入りやすくなり、異物がさらにキズをつける・・・という悪い循環となります。つまり、回転が軽くなるセラミックベアリングですがこの優れた性能を少しでも長く維持するためには「小まめにメンテナンスをする」ということが求められるということです。確実に摩耗が進んでいく中で、定期的に分解して異物を洗浄して取り除き、適した油脂を適量付けて正しく調整をする必要がある、というわけです。その為にカップ&コーン式は「分解清掃が簡単で調整が可能」が特徴に挙げられているのですから。あーちゃんとやっておけばよかったーっ!てな感じです。
 
ところがカンパニョーロ製の優れている点はこうした摩耗する部品を全て交換が可能で、(費用は発生しますが)また新たに最良の状態にして使用を継続できる、というところにあります。ベアリングのボール(球)が消耗部品として供給されているのは当然ながらアウターリング(カップ?)とインナーリング(コーン?)も分解脱着可能な「部品」として供給されていて交換(専用の工具が必要ですが)して継続使用が可能なのです。その際には用途に応じて部品のを選び仕様を変更することも可能です。 以下カンパニョーロのベアリングの種類です:
・スタンダード:スチール球+スチールリング
・USB:セラミック球+スチールリング
・CULT:セラミック球+特殊耐摩耗加工リング

つまりゾンダやユーラスなどのスタンダードベアリングのホイールをUSB仕様やCULT仕様などに「隠れたアップグレード」することも可能なわけです。仕方なくBORAONEだったものを後に実質的TWOに返信させることだって可能です。 オキドキ的な天邪鬼チューンとしては、日常ライドや長距離ライドにガンガン使うシャマルはむしろ耐久性、メインテナンス性重視で「スチール球」化。ここぞ!という本番決戦用には「CULT」化して無給脂で使う、などです。 いずれの方法でもベアリング交換工賃+部品代で作業承りますのでハブのOH作業の際に併せてご用命ください。ただし、純正のベアリング、リングの部品が「1台単位」での供給となりますので「前後セット」での作業となります。
 
【以下は余談として】
そうしてセラミックベアリングはやはり「素晴らしい」というものなのですが、その使用できる環境は限られ、またメインテナンスが十分に行われること、という一般的ではない条件付となってします。ここぞ!というピンポイントな高性能は期待できるものの、対費用効果の面ではシビアな競技の状況でない限り、なかなか厳しいものです。そんな特性のセラミック球のみを某メーカーの「カップ交換式でない」ハブに組み込んでしまった際の結果は明らかで、カップの摩耗は「ハブ交換」となりますし、ヂュラエースなど玉押一体型のアクスルの場合はアクスルも交換の必要があり、対費用効果としては愚かな行為と言えます。
セラミックベアリングを使う状況でもやはり外輪と内輪が一体になったカートリッジベアリングであれば摩耗すれば一括交換という簡単で確実な方法ができるのでやはりMMAVICや最初から設定のあるDT SWISS製のハブ(ホイール)のほうが優れている、とも考えられそうです。