ストーリー的なことやテーマ、主人公の人種・性別・身分・職業などはあまり関係のないことなのだが、最近観たいくつかの映画に共通して惹かれたのはイギリスが舞台の映画の風景である。映画は人間模様が描かれるものでむしろ大切なのはテーマ、人種、性別、身分、職業なのだろうが、風景というシンプルなものに心つかまれた。設定や風景などは、言ってしまえばセットやCGなどで賄える。ホールや劇場で演じられる舞台ものなら関係のない風景という要素は映画でしか味わえない。小高い丘に建てられているお屋敷、お屋敷の外壁にはふんだんにバラが咲き乱れている。その周りの庭、森、小川、花々、きちんと手入れされた芝生。森には木の実、川や池にはボートが。イングリッシュガーデンという伝統が根付くイギリスだからこそ映画の中にも美しく映像化されている。匂いや温度はわからないはずなのに、目で観る映像と、自分の感じたことのある経験があいまって、五感が全部働いてその場面を体感できる。雨や雪が降りそうなときの地面から舞い上がってくる冷たい匂い、風が運んでくる花や太陽のあたたかい香り、待ち焦がれる人が木々を抜けてやってくるさわやかな気配。そういう映像こそがドラマの中の人間の感情を引き立てたり代わりに表現したりしてくれている。

そのいくつか観た映画とは、ハワーズエンド、いつか晴れた日に、ネバーランド、日の名残りである。でも以前にアガサクリスティーのドラマものなども同じような気持ちで観ていたことを思い出した。そういえばミスマープルの家の庭や家の中の情景も値千金である。