三時間前。
「はい、ではこれで、本日の撮影を終わります。ありがとうございました」
スタッフの声と共に、
メンバーはみんな楽屋へと戻っていく。
ともちんも、あっちゃんも、スタジオでは普通に接してきた。
ていうか、いつも通りだった。
なんなんだろう。
この感じ。
嫌な事が起こりそうな気がする。
「さ~えちゃん♪」
「うおっ!」
いきなり後ろから抱きつかれた。
その人物は、
「ねえねえ今度さ、ともとディズニーランド行かない?」
とも~みこと河西智美だった。
いつも佐江に抱きついてくるとも~み。
でも、
今日ばかりは、なんか違う気がした。
「あ、あのさ、きついんだけど……」
佐江に抱きついてきている腕の力がいつもより強い。
「いいじゃん。もうちょっとこのままでいても」
……いや、
きついのは腕の力より、
周りの視線なんだが。
なんでだろう。
いつもはこんなこと日常茶飯事だから、
みんなスルーなのに、
今日に限って、みんなが佐江をにらんでくる。
今日は……
なんかおかしい。
「佐江ちゃん。お菓子作ってみたから、食べてみてよ」
そういって来たのは、
もっちーこと倉持明日香。
「え、えっと……今、腕が不自由で、食べられないんだけど」
そういうと、もっちーはとも~みの方を見た。
いや、
睨んだ。
……早くここから逃げ出したい。
「……ちょっといい?」
もっちーは、なぜだか真顔でとも~みにそう言った。
その言葉に対して、とも~みは大した反応は見せなかったが、
佐江の耳元で『チッ』と舌打ちをして佐江から離れていく。
……超こえ~
「はい。佐江ちゃん、どうぞ」
もっちーはとも~みが離れたら、すかさずお菓子を前に出してくる。
しかも、なぜか手に持って口元に近づけてくる。
これはいわゆる『あ~ん』というやつだろう。
別に変じゃない。
こんなこといつもやっている。
でも、今日は雰囲気が少し違う。
とてもじゃないが、『あ~ん』なんて出来る感じではない。
「いや、ちょっとそれは……普通に食うわ」
そういうと、かなり悲しそうな目でこっちを見てきた。
うわ、胸が痛い。
とりあえずお菓子を自分で口に入れる。
「うん! すごくおいしいよ!」
いつもの『ゲンキング』で、明るく言ってあげる。
そしたら、もっちーも笑顔になってくれた。
よかった、よかった。
でも、
予想通り、
これだけでは終わらなかった。
「ねえ」
その声は、
みぃちゃんこと峯岸みなみのだった。
たぶん、佐江に言っているんだと思う。
「佐江ちゃんってさあ」
やっぱり佐江に言ってた。
「AKBの中で誰が一番好きなの?」
……
へ?
何それ?
何その質問。
ていうか、
なぜか、楽屋中がしんっと静まりかえった。
みんなが佐江の言葉に耳を傾けている。
やっぱり、
今日は厄日だ……
「ねえ、誰なの?」
「いや、誰って言われても……みんな好きだよ」
そういっても、誰も何も反応しない。
たぶん、不服なんだろうな。
「じゃあさ、こうしようよ」
みぃちゃんが、話し始めた。
「佐江ちゃんが、AKBで一番好きな人を一人選ぶ。その人以外は、佐江ちゃんから手を引く。そうしない?」
?
??
???
何の話し?
前も思ったけど……何の話し?
「いいんじゃない」
「賛成」
「そうだね。そろそろ飽き飽きしていた頃だし」
なぜだろう。
みんな同意しているよ。
たぶん、この状況について行けてないのは、
この中で佐江だけだろう。
……よければ、誰か説明してくれよ。
「じゃあ、佐江ちゃん。一人だけ選んでよ」
いや、じゃあって言われても。
……選べないよ。
「私だよね!?」
「私でしょ? ずっと一緒にいるもんね」
「ともでしょ!? ともでしょ!?」
「佐江ちゃん。私を選ばなかったら……呪うよ」
……
……
……
そうか。
わかった。
この窮地からの脱出方法が。
それは、
逃げる。
「あ! 佐江ちゃん!」
「逃げないでよ~」
佐江は、後ろから聞こえてくるメンバーの声を無視して、
全速力で、楽屋から逃げ出した。
続く