玄関口に行くと靴がない


「ちっ 靴 靴!どこだよ!」


半年間も放置していたブランド物の革靴は


いつの間にか、雨ざらしにされて


あの黒光りする原型はもうない。


(最悪。このスニーカーで行けと・・・。)


そこにはいつも履くボロボロのスニーカーがあった。


だが仕方ない。時間もないし、ぱっと見ならこれでいいか。


(くさいけど・・・。)


そう思って、脚を入れると何か妙な感じがした。


(見てらんねぇ・・・って。)


想像もしたくなく


それで出たが。


俺は、後で後悔することになった。



(スーツ、スーツ・・・。)


久しぶりに見るスーツは


タバコの匂いをほのかにさせるが


見た目は、綺麗なままだ。


(半年ぶり・・・か。)


スーツを着れば


顔から下はらしくなるが、


ずっとほったらかしの


無精ひげと伸び散らかした髪は


どうにかしないといけない。


ハサミを持って鏡の前で約10分


昔を思い出し


サクサクッと手際よく手を動かす


(やっぱり、鈍ったな)


高校時代、美容師を目指して


ひたすらに自分で試してみたものの


ためしに


ダチの髪をサンザンにしてしまい


夢はあっけなく壊れた。


(くだらない。)


「ちっ、はやくいかねーと」


すでに時計の針は半分を越えていた。

朝はまだどんより暗いのに


時間だけが迫って来る。


起きたか?紙は持ったか?鍵は持ったか?


いつも鳴るはずの電話はもうならない。


部屋を替わって以来


電話番号すらも


教えていないからか、


それともさすがに愛想が尽きたのか。


半年経った今も音沙汰はない。


そして、仕送りも無くなった。


唯一ただ、わずかに残った小銭だけが


ポケットの中を転がる。


そしてその音だけが妙に俺を落ち着かせる。


まるで、赤ん坊をあやかすガラガラのように。