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日本の政界には3つの極ができた。

第1は、自由民主党と公明党の「保守改憲」勢力。

第2は、立憲民主党と共産党、社民党などの革新的左翼勢力。

第3は、小池氏の希望の党と関西を拠点とする日本維新の会だ。


小説や演劇の手法に「ドンデン返し」というのがある。積み上げた情景描写や登場人物の性格づくりとは関係なく、新しい事件を起こして急転直下、終局に持ち込む手法だ。

 作家が筋を進められなくなり、連載回数も予定の終わりが近付く。編集者からも「そろそろ結末を」とせっつかれる。こんな時に結末を急ぐ手段として使われるのが「ドンデン返し」、作家としては自慢できる手法ではない。

保革対立構造から抜け出すか

 ところで、衆議院選挙を前にして、「民進党を解散、小池百合子東京都知事が立ち上げる新党に合流しよう」という前原誠司民進党代表の言動は、驚くべきドンデン返しだった。

 野党第一党で巨額の政党助成金を受け、つい5年前までは連立内閣の中核だった。その民進党が代表の一存で解党、「民進党から立候補を準備している者は、小池氏の作る新党『希望の党』に公認申請をしろ」というのだからすさまじいドンデン返しだ。

 民進党の人材が大量に新党に入れば、小池新党全体を民進党色に染め上げられるという深慮遠謀があったのだろうか。

 しかし、それも小池氏が「公認申請した民進党の候補者を全員受け入れる気はさらさらない」と念を押したことでかき消えた。

 選挙戦も終盤に入ったが、ドンデン返しのドタバタ劇を経て、日本の政界には3つの極ができた。第1は、自由民主党と公明党の「保守改憲」勢力。第2は、立憲民主党と共産党、社民党などの革新的左翼勢力。第3は、小池氏の希望の党と関西を拠点とする日本維新の会だ。1955年の「55年体制」以来、60年余も続いた「保守革新の左右対立構造」から、ようやく抜け出す可能性が出てきた。

長い目で見ると、三極の競い合いがより良い政策を生み、政治の知恵と力を競い合う形になるだろう。「立憲民主」と「共産」の連合は左翼的なブレーンやマスコミを集めるだろうし、「希望」と「日本維新」の連合は、地方自治体の官僚や地方議員の知恵を集めるべきだ。それがうまく育てば、霞が関の官僚機構にも対抗できる力になりそうだ。

 官僚機構の中で人材は育たない

 この秋、あえて解散・総選挙に踏み切った安倍晋三首相の心理には、来年以降に迫り来る世界大動乱に備えたい思いがあるだろう。

 トランプ米大統領の当選からイギリスの欧州連合(EU)離脱問題、ヨーロッパでの右翼政党の台頭や、中国の覇権拡大、北朝鮮のミサイル・核開発まで、世界が大きく動き出している。

 20年に1度の動乱期、それに備えて、日本も体制を締め直して備えねばならない、というのが「愛国的政治家」のあるべき姿である。

 では、この日本をどう締め直すのか。それをひとことでいえば、政治主導の確立である。

 日本も70年代前半の佐藤栄作内閣の頃までは政治主導だった。だから沖縄返還も実現した。

 しかし現在の政界は「官僚機構の盆の上で踊る政治家」だ。その極みは加計学園問題だろう。文部科学省の課長のような「偉い人」が「獣医学部は過剰、日本の畜産養鶏は増えないのだから」と決めた。それがその後、50年間も引き継がれている。

 内閣人事局を作っても、人事の原案はすべて官僚だ。政治家はコップの中を針でかき回す程度。だから、公務員試験の合格者以外から局長級のポストに就く者はほとんどいない。サイバーテロが心配されてもIT技師の多くは臨時雇用。これでは「プロの人材」が育つはずがない。

国民が白けていてはいけない

 中でも重要なのは最大の国難である、少子高齢化対策に取り組む人材だ。事の性格上、5年10年をかけて実効ある政策を実施しなければならない。1年や2年でポストが替わり、「権限も責任も人事によって引き継ぐ」日本の官僚の主導ではできることではない。

 左右二極の政治は、与野党攻防に明け暮れ、「官僚は正しい、それをゆがめたとすれば政治家がけしからん」と叫ぶばかりだ。その結果、政治は力を失い、官僚主導を許してきた。

 そう考えると、今度の総選挙は極めて重要である。国民すべてが白けていてよいわけがない。

 これからの政治が「三極鼎立(ていりつ)」となれば、大きく変わるだろう。三極の党は、それぞれにブレーンを養い、宣伝機関を育てる。霞が関の政府官僚の他に、都道府県や労働組合からもシンクタンクが育つだろう。そしてそれが、やがてはこの国を新しい国家に、いわば「3度目の日本」にするに違いない。

 1度目の日本は明治維新ではじまった「明治の日本」。2度目の日本は第二次大戦の敗戦ではじまった「戦後の日本」。いずれも後半は官僚主導に陥った。

 今度の選挙は、新しい政治主導による「責任ある日本」を作る選挙である。民主主義に希望を持とう。(作家・堺屋太一 さかいや たいち)

ダウン記事もと

http://www.sankei.com/column/news/171018/clm1710180004-n1.html