つれづれ、めんどくさ ~小説家を目指す!~ -3ページ目

つれづれ、めんどくさ ~小説家を目指す!~

小説家とポップアーティストを目指す『たっつん』の、つれづれ極まりないブログ。

美佐・ジン・ホウオウコガネ18匹は、マメキチとその仲間達に乗り、龍三とイネの店へ向かった。

マメキチに乗る美佐は、同乗するゲンジロウに質問した。
「ゲンジロウさん……本当にいいんですか?」
「ん?何がじゃ?」
「……わたし自身、わがままじゃないかと思って」
「美佐ちゃん、それはわがままじゃない……何も無ければ、普通の人間として生きていたわけじゃろ?」
「確かにそうです。でも、わたしのためにそんな……今になって、悲しくなってきちゃって」
「18匹の結論じゃ……というより、ワシが立候補したんじゃがのぉ。ほっほっほっほ……」
「そうなんですか?でもどうして、わたしなんかのために……」
「美佐ちゃんの熱意に負けたんじゃ。あれだけの生き物を守ったし、約束通りワシらの仲間も集めた。そこで思ったんじゃ……ここまでしてくれるんじゃから、ワシらの“手助け”もしてくれるハズじゃと。あとな、仲間を集めてくれただけで、子孫残す可能性が広がったんじゃ。ワシももう年じゃ……子供も作れん。このまま樹液を吸って無駄に生き延びてくたばるより、何か役に立った方が、ワシとしては本望じゃ。ほっほっほっほ……」

確実に元に戻るわけではないと、ゲンジロウも知っている。しかし、自身のために命を捧げるゲンジロウの決断力と仲間への愛情に、美佐は感情を抑えきれなかった。
そんな美佐の横で、ゲンジロウは正面を見ながら、相変わらず「ほっほっほっほ……」と笑っている。

龍三とイネは、小さな庭で迎えてくれた。全員降りて部屋に入ると、イネは庭のハト達に、労いのポップコーンをあげ始めた。

美佐は「マメキチとハトさん、ありがとう!」と言うと、ジンに話し始めた。
「もう、3ヶ月近く経ちますか?」
「そうだな……」
「憶えてます?お会いした時の事」
「もちろん!お互いの存在にビックリしてたなぁ」
人生で考えると本当に短い期間だったが、悲しい事・つらい事・嬉しい事と、多くの思い出が美佐の頭を駆け巡り、話もはずむ。

話しが落ち着いたところで、ジンが話し掛けた。
「もう、話せなくなるんだよな……」
「どうでしょ?元に戻らないかもしれませんが、戻ったらもしかしたら……ですね」
「美佐、狩りしてくれたりとか、林を守ってくれたりとか……本当にありがとう!」
「ジンさん、とんでもございません!わたしの方こそ、住ませてくれたり、みんなに声を掛けてくれたり……本当にありがとうございました!」
そして、“とりあえずの”別れの握手をした。

美佐は、ゲンジロウのもとに向かった。ホウオウコガネの群れは、ゲンジロウとの別れの挨拶をし終えたところらしく、みんなが美佐を「おお、来た来た♪」と迎え入れてくれた。
「ゲンジロウさん・ホウオウコガネ家の皆さん……本当にありがとうございました!」
「美佐ちゃん……ワシらこそ、仲間を集めてくれてありがとの……これで、ホウオウコガネ家は安泰じゃ!」
するとホウオウコガネの群れは急に美佐を持ち上げ、6回の胴上げを始めた。あまりのサプライズに、美佐は嬉しさのあまり、空中を舞いながら号泣した。
そしてこの騒ぎに近付いたジンも、最後にゲンジロウも、6回ずつ胴上げされた。

そして全員でのハグが終わったところで、龍三から「お~い、イネ。そろそろ準備するぞ」と声が掛かると、ポップコーンを置いて美佐に近寄って来た。
「じゃあ、美佐ちゃん……ホウオウコガネさんを、爺さんの方に案内してあげてくれない?その後、美佐ちゃんは私の方へ」
「はい、わかりました」
美佐は、龍三が正座をする作業場に、ゲンジロウを案内した。美佐に軽く「じゃあ、行ってくるわ」と告げたゲンジロウの背中は、まるで紳士のようだった。

ゲンジロウの姿を背にすると、美佐はイネの後をついて行った。この家屋の一番奥の部屋で、既に布団が敷かれている。
「じゃあ美佐ちゃん、布団の上で寝転がって」
美佐は布団の真ん中で仰向けになると、水色のワンピースが壁に掛かっているのを見つけた。
「イネさん……あの服は?」
「あ、見つけちゃった?美佐ちゃんが元に戻った時のためにって、爺さんがお小遣いから……近所のお店で買ったから、ちょっと古臭いけどね」
「ううん、凄くかわいい……イネさん、ありがとう」
「ダメよ。その言葉は爺さんに……ね?爺さん、このために大好きなお酒やめてたんだから」
「あははは……そうなんですか?あのお酒好きな龍三さんがぁ?」
「そうなのよぉ~。だから戻ったら爺さんに……このお酒をお酌してあげて」
と、イネは押入れに隠しておいた一升瓶の日本酒を取り出した。
「はい、もちろんです」
「爺さん、ああ見えて悩んでたのよ……このお酒は、私からの2人への祝い酒なの」
そう言うと、イネは一升瓶を、再び押入れの中にそっと隠した。イネの心遣いに、美佐は瞳を潤ませていた。

暫くすると、龍三が「はいお待たせ~」と言いながら小さな緑の皿を持って部屋に入ると、それを美佐の横に置いた。
「美佐ちゃん、これが“黄金湯(こがねとう)”だよ……これを全部飲みなさい」
皿には、白く濁った液体が入っている。美佐が覗き込むと、ゲンジロウの顔と「ほっほっほっほ……」という笑い声を思い浮かべた……ここには、ゲンジロウの魂が眠っている。

「龍三さん・イネさん……ありがとうございます。この黄金湯は、ゲンジロウさんというホウオウコガネの魂が入っています……一緒に合掌して頂けますか?」
「もちろん!」と、3人は黄金湯に向かって手を合わせ、ゲンジロウの冥福と感謝の気持ちを伝えた。

合掌を終えると、美佐は再び黄金湯に手を合わせ、「それでは、頂きます……」と言ってから、一気に飲み干した。

イネは皿を回収すると、「美佐ちゃん、暫く布団の上で寝てなさい……私たちは別の部屋にいるから。元に戻る事を祈っているよ」と、龍三と部屋を出て、襖を閉めた。
部屋は真っ暗である……見えるのは、雨戸の隙間から極僅かに入る外の光のみだった。

美佐が色んな出来事を振り返ろうとした時、急に体中が熱くなった……と同時に、息苦しさと、全身が引き裂かれるような強い痛みを感じた。。。

美佐は、助けられた多くの仲間の顔を思い出しながら、大声で叫んだ。
「みんな……ありがとーーーーーーーー!」
そのホウオウコガネは、“ゲンジロウ”という、初老のオスだった。美佐が経緯を話すと、ゲンジロウは悲しそうに訴えた。
「う~ん……美佐さんの気持ちはよ~く分かる。しかしご存知かもしれんが、ワシの仲間は減っておってのぉ……それだけが問題じゃ」
「はい、伺っております……そうだ。ゲンジロウさんは、どちらからいらっしゃったのですか?」
「ここから北の方じゃ。人間は……確か、宮城とか呼んでおったなぁ」
「そんな遠くから!ありがとうございます!その辺りには、まだお仲間も?」
「まぁ多くはないが、若い衆はおるぞ。噂だと、岩手とかいう場所にはもっとおるとか……」
「へぇ~…ゲンジロウさん、わかりました!その問題、もし私が元に戻ったら手助けさせて下さい!」
「ほ、本当か……それなら、考えてやろう」

すると、横で話を聞いていたジンは、美佐に話し掛けた。
「で、どうするんだ?」
「私にいい考えがあります……まずは場所を絞って、ホウオウコガネ家の方々をもっと探します!」
「そうか……俺達には何も出来んから、美佐に任せるぞ」
「ハイ!」
美佐は小さくなって以降、一番の笑顔でうなずいた。

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3日後、美佐からの捜索場所の限定の効果もあってか、林に集まったホウオウコガネは18匹に達した。

そんな時、20名ほどの人間がゾロゾロと、林の奥へ奥へと入って来た。その光景に、多くの生物はビクビクしていたが、美佐は逆にワクワクしていた。
遠くからだが、美佐からは団体を先導しているのが龍三だと分かった。個々に林の木々を一本一本、じっくり見上げている様子が伺える。
「あ~っ!アレじゃないですか?」
一人のスーツ姿の男性が突然、一本の木に対し人差し指を突き上げた。すると周りから「おぉ~!」と声を上げた。
その先には、あの18匹全てのホウオウコガネが、葉で太陽光を避けるように掴まり、眠っていた。

龍三たちがその場を去って以降、チェーンソーの音が林の中を木霊する事は無くなった。

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翌日の早朝……まだ薄暗い時間だった。美佐は部屋で眠っていると突然、見張りの兵隊アリに先導されたジンが、「おい、美佐……ごめん。ちょっとコッチへ」と起こしに来た。

しとしとと梅雨らしい雨が降る巣穴の外に出ると、目の前には、チュンチー・ケンゴ・マメキチ・ヒロミ・ゲンジロウも含め、大勢の生き物が群がっていた。ジンは、美佐に語り始めた。
「美佐、お前のおかげで、この林は守られた……俺達もこいつらも守られた。本当に、ありがとう!」
直後、他の生き物が一斉に、「ありがとう!」と叫んだ。

次に、ゲンジロウが前に出た。
「美佐さん……ワシは長年生きてきたが、こんなに多くの仲間に会ったのは初めて!そなたのおかげじゃ……ありがとな。そこでお礼にと、18匹で話し合って、1匹だけ犠牲になる事にした……この老いぼれでもいいかのぉ?」

美佐は、全員からの感謝の言葉に耐え切れず、目頭を思いっきり熱くした。
「何とかしないと……」
美佐はマメキチに乗って、再び龍三とイネの店を訪れた。

林の生物は、自らの命を落とすまいと、林の更に奥へ移住した。しかし美佐には、それだけ密集する分、生態系が狂い始めるのは目に見えていた。

イネが土間でマメキチに餌を与えているかたわら、龍三は美佐と地方紙“ふくしま日報”を読みながら話し始めた。
「昨日テレビでもやってたんだが、あの山に博物館が建設されるそうだ」
「それでですか……どうして急にそんなモノを?」
「今新聞を読んで気付いたんだが、リーダーは……ほらココ、本郷製薬の藤堂靖信。美佐ちゃんを殺そうとしたアイツだ!」
「まだ恨まれてるみたいですね。地図だと、私が捨てられて住んでる場所にピッタリ……」
「美佐ちゃんはどうしたい?」
「そうですねぇ……龍三さんのお知り合いに、市会議員さんっていらっしゃいます?」
「ああ、いるよ。この集落の代表をしている栗田さんだ」
「その栗田さんに、この林には“ホウオウコガネ”を始め貴重な生物がいると、訴えて頂けませんか?」
「ん?もう見つかったのかい?」
「いえ、まだです……しかし、必ず見つけます!例え見つからなかったとしても、こんな貴重な生態系を守らなければと、ここに住んで知ったんです」
「うん。美佐ちゃん、わかった。集落のみんなにも協力してもらうよ」
「よろしくお願いします!」

新たな住まいへ向かう美佐は、マメキチの飛ぶ上空から山を見下ろした。作業員らしき数名が、チェーンソーで木を伐っている。伐採された木はまだ少ないが、一部の土が無くなっており、一帯が茶色になるのも時間の問題だと理解した。

巣穴に戻ると、この林で起こっている事・龍三に協力をお願いした事を、ジンに伝えた。
「美佐、見張っているチューチーで靖信を殺す事も出来るんじゃないか?」
「それも出来ますが、アイツが死んだからって、博物館が無くなるとは思えません……既にヒーロー扱いなんです。むしろ、死んだら人情で更に建設が早まるかもしれません」
「仕返しはどうするんだ……まだ収まりきらないだろ?」
「龍三さんと会って、元に戻る可能性が出て来ました。もし身体が元に戻ったら、アイツの人生をメチャクチャに……チュンチーさんには、後で見張りだけをして貰うように伝えます」
「そうか、わかった……でも、これで本当にこの林は守られるのか?」
「絶対ではありませんが、可能性はあります!」
「どうしてここまで思ってくれるんだ……」
「わたし、思ったんです。2ヶ月以上、生活させてもらってます……アイツへの最低限の仕返しも出来ました。これも、ジンさんを始め、林の皆さんのおかげ……少しずつでも恩返しをしないと!」
「なるほど……わかった。頼りにしているぞ」
「いえいえ、こちらこそ!」
そんな時、ジンの部下が部屋に入り「ジンさん・美佐さん、朗報です。上まで来て下さい!」と叫んだ。

巣穴の外は、いつも以上に光に満ちていた。目の前には、この世のものではないような虫が「おぉ、ワシらを呼んだかのぉ」と美佐に声を掛けた。
それは、虹色の身体を輝かせる、ホウオウコガネの姿だった。